[1]見えにくい新型コロナの蔓延、コロナ禍に便乗した新聞発行・販売禁止
2020年09月11日
新型コロナウイルスは中東でも3月から蔓延しはじめ、ほとんどの国が4月、5月は外出禁止令による都市封鎖(ロックダウン)を行った。6月、7月で規制は解除されたが、患者数、死者数は下がりきらないまま、8月後半から9月になって再び増加傾向になっている。
中東各国はほとんどの国が民主主義や報道機関が機能していない強権国家であり、イランのように米国との対立や制裁下にある国、シリアやイエメンのように内戦が続いている国、対立が続くイスラエルとパレスチナ、イラク、レバノン、アルジェリアなど民衆による反政府デモが激化していた国など、地域や国の複雑な問題が、新型コロナ対策にも影響している。
この新連載「新型コロナから見る中東」では、中東の各国や地域の新型コロナ蔓延の状況を追いながら、コロナ禍によってあぶりだされる政治や社会、経済の問題をとりあげる。
まず、最初に世界保健機関(WHO)の集計データから中東でのコロナ流行の状況を数字で俯瞰する。
中東ではほとんどの国で、集団礼拝などを行うイスラム教徒が多数派を占め、さらに乾燥した砂漠性の気候など、ウイルス蔓延の条件はさほど変わらない。しかし、9月5日時点で国ごとに確認された陽性者や死者を見ると、国ごとに大きな差異がある。
確認陽性者数だけを見ると、イランが38万人と最も多く、サウジアラビア(32万人)、トルコ(28万人)、イラク(25万人)と続く。10万人前後の陽性者が確認されている国が、イスラエル(13万人)、カタール(12万人)、エジプト(10万人)、クウェート(9万人)、オマーン(9万人)となっている。
ただし、中東では人口が1億を超えるエジプトから170万のバーレーンまでばらつきがあるため、10万人あたりの確認陽性者を計算した。それによると、カタールが4125人で最も多く、バーレーン(3182人)が続く。この2国は陽性者は多いが、死者はともに200人前後と少ない。
両国とも国土が半島または島で狭く、人口がカタール290万、バーレーン170万と少ない。徹底的なPCR検査によって、陽性者を発見して、対応することで死者を少なくしていると推測できる。今後の連載で、両国のコロナ対策にも焦点をあてたい。
続いて10万人あたりの確認陽性者が多いのは、クウェート2052人、オマーン1694人であり、いずれも、カタール、バーレーンと同様に湾岸産油国である。一方、サウジアラビアは湾岸諸国では突出した3500万の人口を抱え、陽性者も32万人、死者4000人を出している。10万人あたりの陽性者は917人で、国境を接するカタールの4分の1、バーレーンの3分の1である。9月1日~6日の間の死者は、カタールは計5人、バーレーンは計7人に対して、サウジは計179人と人口比を超える死者数である。サウジにとってはコロナの蔓延はなお脅威であり、湾岸での不安定材料ともいえる。
湾岸のもう一つの国であるアラブ首長国連邦(UAE)は、8月中旬に米国の仲介によるイスラエルとの国交正常化の合意を発表した。昨年以来、ホルムズ海峡をはさんでイランと対峙している国としても注目された。
新型コロナ問題では、10万人当たりの確認陽性者数が735人と湾岸諸国では最も少ないことから、十分な感染者の捕捉ができていないのではないかという心配もある。そのうえ、8月中旬に200人台だった新規陽性者は、9月に入って500人台から700人台へと増加し、警戒感が強まっている。イスラエルとの国交正常化にはコロナ対策での技術協力も一つの要素となっており、今後、踏み込んで考察したい。
中東で人口10万人当たりの確認陽性者の多さでは、湾岸諸国の後に来るのはイスラエルの1438人で、熱心にPCR検査を行っていることがうかがわれる。人口は870万人に過ぎないが、死者は988人と比較的多い。
ネタニヤフ政権は3月下旬に非常事態宣言を出し、自宅から100メートル以上離れる外出を禁じるなど厳しい措置をとった。それによって一時新規感染者は減少し、5月初めに「封じ込め成功」宣言を出し、規制緩和に転じたが、7月にまた感染者が増加に転じた。厳しい規制で失業率が24%に達するなど国民生活への影響は大きく、7月にはネタニヤフ首相のコロナ対策の失敗を非難するデモ隊と警官隊の衝突が起こった。ネタニヤフ首相はコロナ対策では厳しい批判を受けている。
中東のコロナ状況を考えるのに、イスラエルの数値は参考になる。中東では欧米並みの検査システムや医療レベルを有する国であり、政府の政策を監視する民間のメディアも機能していることから、コロナの実態が見えやすいためだ。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください