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菅政権なら「安倍家の生ゴミのバケツのふた」 田中真紀子氏が語る自民総裁選

石破氏は「納豆餅」、岸田氏は「冷凍の透明人間」と低調さに苦言。野党新党にも注文

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

自民党総裁選の共同記者会見に臨む3候補=9月8日、東京・永田町。朝日新聞社

 自民党総裁選が9月8日に始まった。久々の新首相誕生につながる与党の一大行事が、なぜこんなに低調なのか。同時並行で代表選が進む野党の立憲民主党と国民民主党の合流新党には何が問われるのか。かつて政権を奪い合った自民党と民主党の双方で閣僚を務めた、田中真紀子氏(76)に聞いた。

 真紀子氏は1972~74年に首相を務めた田中角栄氏の長女。父の新潟県の地盤を継いで93年に衆院議員に初当選し、自民党政権で科学技術庁長官、外相、民主党政権で文科相を務めた。東京・目白台の自宅近くのホテルでのインタビューは、自民党総裁選に辛辣だった。

「真ん中ははぐらかし」

――自民党総裁選が告示され、元幹事長の石破茂氏、官房長官の菅義偉氏、政調会長の岸田文雄氏(写真では右から)が立候補しました。3候補がそろって臨んだ8日の記者会見はどうでしたか。

 真ん中(菅氏)ははぐらかし、両脇の二人(左の岸田氏、右の石破氏)は具体性がなかった。特に森友・加計学園や「桜を見る会」の問題を問われた時の答えぶりです。あんなに国民の政治不信を生んだ問題なんだから手術して取り除くのが当たり前なのに、やる気が見えません。

 昨夏の参院選で、広島選挙区で自民党公認候補の河井案里被告(公職選挙法違反の罪で公判中)に党が1億5千万円という破格の支給をしていたこともそうです。国民から集めた政党交付金を何に使ったのか。党のトップとして踏み込んで対応する姿勢は感じられませんでした。

取材に応じる田中眞紀子氏=9月8日、東京都新宿区。藤田撮影

――田中さんが自民党にいた頃の1998年の総裁選で、小渕恵三、梶山静六、小泉純一郎の3氏が立候補した時、「凡人、軍人、変人」と評して話題になったのを思い出します(当選した小渕氏が首相に就任)。今回の総裁選に出た3氏をどう表現しますか。

 石破さんは納豆餅ね。アメリカ人の知り合いの夫婦が正月にうちに来たことがあって、お餅をふるまったら「いつ飲み込むんだ。かみ切れない」と。それに納豆をからめたら、もったいぶった食べ物だけどよけいべちゃべちゃして、いつまで経っても飲み込めない。

 岸田さんは初当選同期で仲はいいんだけど、冷凍になった透明人間かな。固まっちゃっていて、それでも自然解凍したら水がでれでれと出てきてふつうは生臭くなるんだけど、溶けても何もない透明人間。調理してもおいしくない。石破さんよりも背骨を感じない。

 菅さんは暗い。生ゴミを詰め込んだバケツのふた。その取っ手ですね。だれにしたって料理の乗ってないお皿のようなもので、そんなの出されても魅力がない。たたかれても主張をばんと言って国民に料理を出さなきゃだめ。政治ってもっと明るく光り輝いて期待を持たせるものでしょ。でもみんな熱が、エネルギーがない。

朝日新聞社

安倍内閣への検証なし

――菅氏は多くの派閥から支持され優位に立っていますが、バケツのふたというのは、どういう意味ですか。

 主婦の感覚です。安倍政権では例えば森友問題で公文書の改ざんがあったり、財務省の職員が自殺したり、でもその責任をあいまいにするうそとはぐらかしがたくさんあって、国民の不満も募っていた。なのにそうした悪臭紛々とした生ゴミを安倍家の台所から出して、バケツに押し込める。そのふたをするのが菅政権の役割ではないかということです。

 歴代最長になった安倍政権が終わったら、やるべきは検証、分析をして改善することなのに、官房長官でずっと臭いものにふたをしてきた菅さんが次の首相になって、できるわけがないでしょう。役所の縦割りの打破とおっしゃってますが、理念がないだけに安倍政権よりも一層人事で官僚を締め上げる、もっと暗―い強権政治になりますよ。

――なぜこうした自民党総裁選になるのでしょう。

 これまでの自民党政権や、政権交代で一時政権を担った民主党の責任もあるでしょうが、一番は安倍晋三首相ですね。政権のいろんな懸案を抱えながら、いきなりみんな投げ出すわけだから。党員投票などせずに、さっさとどう引き継ぐかという話になってしまう。

 その長く続いた安倍政権の下で自民党が劣化したこともあります。かつては派閥が政策を掲げて領袖を次の首相にと争ったものですが、つきあいのあるベテラン議員に聞くと、安倍政権しか知らない若手はそうした切磋琢磨が理解できず、どう動くか想像もつかないと嘆いています。

 また、そうしたベテラン議員たちも地盤を子供に継ごうかという年齢になっています。そのためには自己保身。与党であり続け、党から政治資金と選挙区で候補者となる公認をもらい続けることが大切になる。政策論争より、党内で争う場合ではないと考えがちです。

 でも、本当はコロナ対策一つとっても、医療や経済、金融の分野で日本の指導者が世界にどう発信し、協力するかで国際レベルにならないといけない。そういう議論が必要なのに、この自民党総裁選はお粗末すぎる。国民の不幸ですよ。

取材に応じる田中眞紀子氏=9月8日、東京都新宿区。藤田撮影

――かつて田中さんが見た自民党総裁選と比べてどうですか。2001年には当選した小泉さんの推薦人になり、「私は『変人』の生みの母です」と支えました。

 田中角栄の家族として私が見ていたのは、1972年、佐藤栄作首相の長期政権が終わって父が福田赳夫さんと争った「角福戦争」と、74年に金権問題で父が首相を辞めるときの椎名悦三郎副総裁による「椎名裁定」の時です。

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