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ポスト5Gへの挑戦

不誠実な日本は軍事問題に触れず

塩原俊彦 高知大学准教授

 総務省は2020年6月、同年からスタートした「Beyond 5G推進戦略懇談会」(座長:五神真 東京大学総長)がまとめた2030年代の通信インフラなどの方向性について「提言」を出し、加えてそれに基づく「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」を公表した。ここでは、これらを紹介すると同時に、その問題点を指摘したい。

周波数帯の基礎知識

 まず、図1からわかるように、波長の長さ(周波数の大きさ)ごとにさまざまの種類がある。電子レンジにはマイクロ波が利用され、ミリ波は30 GHz~300GHz (波長1mm~10mm)の電磁波で、波長がミリメートルオーダーなのでこの名前がある。一方、テラヘルツ波は300GHz~3THz(波長100μm~1mm)で、周波数がT(テラ)ヘルツオーダーであるため、こう呼ばれている。また、この周波数帯はサブミリ波と呼ばれることもある。

 一般に、低周波数の電波は、障害物を回り込んで遠方まで伝わる。高い周波数の電波は、直進性が高く、遮蔽物に遮られやすい。加えて、低周波数の電波は伝送できる情報量が小さいのに対して、高周波数の電波は多くの情報量を伝送できる。こうした特徴から、低周波数の電波は、船舶通信、航空通信、AM放送などに利用される一方、高周波数の電波は、衛星通信やレーダーなどに利用されている。

 マイクロ波までの比較的低い周波数の電磁波は一般に、雨などによる影響をあまり受けない。このため、テレビやラジオなどの放送、携帯電話などにも利用されている。

 移動通信システムをその技術進歩に合わせて「世代」として分類するとき、いま使われている第四世代移動通信システム(4G)に比べて、5Gや6Gの電波の飛ぶ距離は短い性質をもつ。基地局の数で言えば、5Gや6Gでは4Gよりも多くの基地局が必要になる。

 図2は日本、米国、EU、中国、韓国、国際電気通信連合(ITU)の5G周波数帯域を示している。一般に、5Gの周波数帯域には、主に3GHz帯と4GHz帯の6GHz以下の電磁界(EM)スペクトラム(「低中帯スペクトラム」、「サブ6」とも呼ばれる)が利用される以外に、24(30)~300 GHz の間の周波数帯(「ハイバンド・スペクトラム」または「ミリ波」)に焦点を当てたものがある。米国、韓国、日本ともに、サブ6も検討しているが、こちらも採用している(後述する表1参照)。

 米国の通信事業者は、5Gのためのミリ波の展開に力を入れざるをえない状況に置かれている。なぜなら、世界の他の国々が5Gのために使用している3および4GHz帯の大部分は、米国の排他的な連邦帯域であり、特に国防総省が広範囲に使用しているからだ。重要なことは、5Gもポスト5Gも軍事とのかかわりを抜きにしては決して語れないということだ。

 別言すると、国防総省は米軍に確実なグローバル通信を提供する先進超高周波衛星など、一部のミリ波を使用していると同時に、サブ6周波数を広範囲に使用しているため、米国でのサブ6周波数の利用可能性は他国に比べると低い。ただ、ミリ波は比較的短い距離を移動するため、雨に吸収されたり、建物や車両などの物理的な物体によって中断されたりする可能性がある。そのため、ミリ波による5G整備では、より多くの基地局を設置する必要があり、サブ6アプローチよりもはるかに高いコストが必要になる。

 こうした状況から、米国では、5Gの展開は高速・高帯域幅の通信はミリ波に、全国的なカバレッジはサブ6波に依存している。米国の通信業者をみると、ミリ波の展開に注力している事業者もあれば、サブ6波に注力している事業者もあることになる。一方、中国の通信事業者は、主として安価なサブ6波アプローチに注力している。ロシアの場合、3.4~3.8GHzが国防省、ロシア宇宙局(ロスコスモス)、その他機関によってすでに利用されており、5Gの周波数帯をどうするかが問題化している。

拡大図2 各国別5G用周波数帯 (備考)2019年10月~11月の世界無線通信会議(WRC)で、日本向けに合計15.75GHz幅(24.25-27.5GHz、37-43.5GHz、47.2-48.2GHz、66-71GHz)が新たにIMT用の周波数として合意された。
(出所)「5G及びBeyond 5Gに関する現状」(2020)Beyond 5G推進戦略懇談会事務局, p. 11, https://www.soumu.go.jp/main_content/000670824.pdf

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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