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菅政権誕生で日韓は? 不毛な「安重根論争」再び?

課題山積の日韓関係、「大人の余裕」も必要では

市川速水 朝日新聞編集委員

 「『韓国たたき』主導の安倍首相が辞任へ 韓日関係好転なるか」

 韓国の通信社・連合ニュースがこう速報したのは2020年8月28日夜のことだった。

 韓国の政権やメディアにとって、安倍晋三首相といえば日韓の長期にわたる膠着状態を招いた張本人であり、首相が交代すれば、目下の主な課題である「徴用工への賠償」「半導体素材輸入規制」「GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の続行」といった諸問題が一気に解決に向かうのではないか、と期待を込めたものだ。

拡大すれ違いが目立った安倍首相と韓国・文在寅大統領。2019年12月の日中韓首脳会談で

「関係好転?」の期待一気に萎む

 文在寅(ムン・ジェイン)政権の与党「共に民主党」の崔芝銀(チェ・ジウン)報道官もその日のうちに「(日本の新政権と文政権は)韓日の交易と経済のためにも、対話と疎通が持続的に行わなければならない。日本政府のより前向きで責任ある姿勢を期待する」と論評。野党「未来統合党」の金恩慧(キム・ウネ)報道官も「新首相は、韓日関係により前向きな視線で臨むことを願う」とコメントした。

 その期待の色が褪せていくのはあっという間だった。

 文政権に比較的近いハンギョレ紙は、安倍首相の1時間にわたる辞任記者会見を分析する記事の中で「独特の歴史修正主義を前面に出し、韓日関係を荒波の中に追い詰めた安倍晋三首相が…(略)…長い政権を終える意向を明らかにした。〝史上最悪〟と評される韓日関係の未来にも大きな影響があると予想される」としながらも、こう続けた。

 「(会見の中で)韓日関係への特別な言及はなかった。…(略)…日本の記者たちも韓日関係については質問しなかった。これは、安倍首相の突然の辞任と新型コロナ危機対応などにより韓国に対する関心が相対的に低くなったことを傍証する」(同紙電子版から、以下各メディアの引用も電子版を中心に)

 このハンギョレ紙の見方は正しいといえるだろう。1時間の中で日韓関係の優先順位は確かに低いし、何よりも日韓関係の悪化がどん底に張り付いたまま動きもないし、質問したところで建設的な答えが返ってくるとも思えないからだ。

 総裁選がスタートする前から後継候補は菅義偉・官房長官、石破茂・元幹事長、岸田文雄・政調会長の3人に絞られ、有力派閥がこぞって菅氏を推すことが分かると、韓国側はさらにトーンダウンしていった。

 安倍政権の路線を全面的に継承する姿勢を示した菅氏に関して「菅氏は安倍首相の分身?」(中央日報、9月3日)といった見出しが目立ち、日韓関係の好転を求めるのは難しいという雰囲気に満ちてきた。


筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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