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悪例残す政権末期「内閣総理大臣の談話」 安倍首相、敵基地攻撃への固執

首相の「遺産」と国益混同した歴代最長政権の惰性と妥協

藤田直央 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

目的についての説明不足

 次に、目的の妥当性についての安倍政権の説明不足だ。

 今回の談話では、安倍首相がこだわる敵基地攻撃能力の保有の検討がなぜ必要かという説明は、ほとんどない。8月末の辞任表明会見でも語った「(ミサイル)迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことが出来るのか」という「問題意識」を繰り返すにとどまっている。

拡大9月11日に発表された「内閣総理大臣の談話」の一部

 今の中国や北朝鮮と日本の関係が良くないことや、両国が日本を射程に入れるミサイルを多数持つことを考えれば、両国のミサイルを日本が懸念すべき事情は確かにある。だが、そのために日本の戦後の安保政策を転換し、敵基地攻撃能力を持つことまでがなぜ必要なのかという説明が欠落しているのだ。

 中国や北朝鮮にとって日本自体は脅威ではない。その両国が日本の領土にミサイルを撃たねばならない動機として最もありうるのは、台湾有事や朝鮮半島有事に米国が日本を拠点に介入することを防ごうというものであることは、防衛省幹部や安保政策の専門家がそろって認めるところだ。

 しかもいま、米中対立が深まっている。こうした状況を俯瞰すれば、日本政府が「国民の命と平和な暮らしを守り抜く」ために必要なのは、米国を巻き込んだ東アジアでの外交や軍縮による緊張緩和など多層的な努力であることがわかる。

 日本に突然ミサイルが撃ち込まれるかのような前提を置き、巨額を費やして防衛装備体系を変え敵基地攻撃能力を持つことが、果たして費用対効果からして妥当か、かえって東アジアの緊張を高めないか、といった議論が必要なのだ。

拡大2019年6月、G20大阪サミットの関連行事に参加した安倍首相(中央)と米国のトランプ米大統領(左)、中国の習国家主席(右)=大阪市住之江区。代表撮影

 そうした議論がなされたのかどうか。安倍首相が6月の記者会見で敵基地攻撃能力の保有に意欲を示してから、5回も外相や防衛相らと国家安全保障会議を重ねて今回の談話に至るまで、国民への説明は何ら深まりを見せなかった。

 政府が談話について報道関係者に説明した場で、私が「迎撃能力を向上させるだけ」以上の検討がなぜ必要なのかと質問しても、答えは談話をなぞるだけ。談話に至る議論の中身は「国家安全保障会議の内容は答えを控えることになっている」と説明を避け続けた。

 談話には別の意味での説明不足もある。「わが国を取り巻く安全保障環境は厳しさを増しています」とした理由として、北朝鮮の問題しか触れず、圧倒的な軍事力を持つ中国に言及していない。これも6月の首相の記者会見からずっとのことだ。

 ただ、政府の説明では私の質問に対し、談話のこの部分には中国への懸念も含まれることを認め、「海洋での活動の拡大や、極めて急速なピッチでの人民解放軍による多数の兵器、艦艇や航空機の増強」を指摘したことは記しておく。

結局はあいまいな発信

 最後に、

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筆者

藤田直央

藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)

1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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