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リアリズムに挑んだ安倍外交の限界 北方領土はなぜ返還されなかったか? 

トランプ、プーチン……信頼関係は築いたが、日本独自の理想像や展望は示せず

星浩 政治ジャーナリスト

北方領土のハードルを下げた四つの理由

 安倍首相が対ロ外交で大きく舵を切ったのは、2018年11月のシンガポールでの日ロ首脳会談だった。それまでの4島返還の要求を封印し、1956年の日ソ共同宣言に基づき、歯舞、色丹の2島の返還による決着をめざすことになった。

 しかしロシア側は、第2次世界大戦の結果として4島すべてがロシア領になったと確認するのが平和条約の役割だと主張。「ソ日共同宣言は将来的に2島を引き渡すと約束しているが、主権まで渡すとは書いていない」などと繰り返した。日本側が2島先行返還という大きな妥協を示したにも関わらず、ロシア側は譲歩せず、交渉はかみ合わなかった。

 安倍首相が交渉のハードルを下げた理由は何か。首相側近は、
①北方領土問題を解決し、ロシアとの平和条約を締結するのは、北朝鮮との国交正常化とともに戦後日本外交が解決できないでいる懸案だ。それを解決すれば、政権にとって大きなレガシー(政治的遺産)となる
②プーチン大統領とは首脳会談を重ね、個人的信頼関係があるので、解決は十分可能だと判断した
③ロシアとの関係改善には米国の理解が欠かせないが、トランプ大統領は安倍首相に好意的なので、米国の了解は得られると踏んだ、
などと説明している。

 安倍首相による譲歩は、経済産業省出身の今井尚哉秘書官ら側近を中心に練りあげられ、外務省の専門家らはこの方針の決定に関与しなかった。今井氏は、外務省が長年、北方領土問題で成果を上げられなかったことについて、「外務省にはアイデアがない」と、たびたび批判してきた。

隔たりが大きかった首相と外務省

 外務省の「専門家」とは、ロシア語を学んだいわゆる「ロシアスクール」だけではない。米国との同盟関係の延長線で対ロシア強硬姿勢を唱える主流派も、プーチン政権との妥協には懐疑的だった。

 対ロ外交について、ある外務事務次官経験者は私にこう語った。

 「そもそも、私たちと安倍氏とはプーチン氏に対する評価が異なっている。

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筆者

星浩

星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト

1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。

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