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「原発報道」は戦後ジャーナリズムの敗北の原点である

ジャーナリスト柴田鉄治さんの訃報に接して

石川智也 朝日新聞記者

「安心して誘致」を訴えた朝日新聞連載

 2年前の第五福竜丸の被曝や米ソの核実験で「放射能マグロ」「放射能雨」という言葉が生まれ、国内では放射能汚染への懸念が広がっていたが、木村は解説記事で「幸せなことにその心配はないようだ。放射能をおびた気体や水は十分処理してから大気中や海に捨てられる」「炉を冷やすための水もいくらか放射能を帯びるが、(略)海に流しても放射能マグロなど絶対にできない」と説明。そして「万事、安全第一だから近所の人たちも安全なわけである」と結論づけた。

 放射線量が非常に強く当時「死の灰」と表現されていた使用済み核燃料については、こう言い切った。「ドラムカンに入れられたりした上で、太平洋のまん中に捨てられる。(処理方法は)ほかにもいろいろな手段があり、いずれの場合も危険性はない。アルコール工場やデンプン工場より、原研の方がずっと衛生的だ」

 科学技術の力によって原子炉の危険性は抑えられるのだから、県や村と歩調を合わせ、安心して原研を誘致しようじゃないか。事実上そう訴えている記事だった。

 各地の綱引きの果てに、原子力委員長・正力松太郎の強引かつ巧みな政略で原研建設地が東海村に決まったのは4月6日だ。その2週間後、木村は「原子力の豆知識」というコラムの連載を茨城版で始めた。初回に「地元に住むわたくしたちは、少なくとも『原子力県民』の名にふさわしいだけの知識を身につけておきたい」と連載の意図を記したうえで、原子力発電を「わずかの燃料で何年も運転を続けることができ、しかもススも煙も出ないから快適だ」と紹介、さらに「放射性同位元素を使えば、常温のままで殺菌でき、新鮮で生のままでも保存できるので画期的である。刺身もピクニックの弁当として手軽に野や山へ持って行けることになるだろう」と、原子力がもたらす恩恵を描いた。

 連載は3カ月間、全50回に及んだ。放射能の危険性に触れたのは1回、「原子炉の運転や、使用ずみ燃料の処理、アイソトープの取り扱いなどには強い放射線がつきものだが、保健物理学者たちの努力によって放射線障害は事実上存在しなくなった」という記述のみだった。連載の一部は、県の広報紙にも転載された。

 朝日新聞はこの連載を基に12月、「郷土のほこり」と題したパンフレットを県内に配った。翌1957年元旦から水戸市で開催される「原子力平和利用博覧会」を記念したもので、表紙は東海村で建設中の第1号原子炉の写真だった。

拡大朝日新聞が「原子力平和利用博覧会」のために茨城県内で配ったパンフレット「郷土のほこり」。東海村で建設中の国内第1号原子炉の写真が表紙に使われている

 博覧会には36日間の会期中、県民の1割にあたる22万7千人が来場した。「原子力ようかん」「原子力まんじゅう」が土産として売られ、木村の連載「原子力の豆知識」も冊子になり土産物屋に並んだ。1冊50円、飛ぶように売れたという。

 原子力博覧会は1955年11月、読売新聞社と米広報庁が共催し東京・日比谷で開いたのが皮切りだ。正力松太郎率いる読売新聞と日本テレビがしきりに原子力の追い風報道をしたことはよく知られているが、原子力ブームを煽り「平和利用」を盛んに喧伝したのは、どの新聞も変わらない。この年の新聞週間の標語は「新聞は世界平和の原子力」だった。

 博覧会はその後全国10カ所で開かれ、各地で新聞社が主催や後援についた。朝日新聞社は京都と大阪で主催した。会場では原子炉の模型や人間の手の動きを再現する「マジック・ハンド」などが展示され、科学技術が開く明るい未来をアピールした。原子力の危険に触れることはなかった。

 広島と長崎での原爆投下から10年余り、第五福竜丸の被曝で広がった反核運動で3千万人を超す署名が集まり、広島で第1回原水爆禁止世界大会が開かれたのは、半年前のことだ。銀幕の中では、水爆実験で目を覚ましたゴジラが口から放射能を吐いて人間に復讐していた。原水禁運動や放射能の脅威への警告を、メディアは平和利用キャンペーンでかき消していった。

 なぜ、新聞は原子力の安全性に切り込まなかったのか。

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筆者

石川智也

石川智也(いしかわ・ともや) 朝日新聞記者

1998年、朝日新聞社入社。社会部でメディアや教育、原発など担当した後、特別報道部を経て2021年4月からオピニオン編集部記者、論座編集部員。慶応義塾大学SFC研究所上席所員を経て明治大学ソーシャル・コミュニケーション研究所客員研究員。著書に『さよなら朝日』(柏書房)、共著に『それでも日本人は原発を選んだ』(朝日新聞出版)、『住民投票の総て』(「国民投票/住民投票」情報室)等。ツイッターは@Ishikawa_Tomoya

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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