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菅政権は日米地位協定を改悪した安倍政権の手法も継承するのか?

日米地位協定を政局の道具として使った安倍政権。菅政権はどうか……

山本章子 琉球大学准教授

衆院本会議で首相指名を受ける菅義偉・自民党総裁=2020年9月16日午後1時45分、国会内

 9月16日、安倍晋三首相の後任に菅義偉氏が選ばれた。国会周辺ではさっそく、衆議院が年内に解散される、いや10月には投開票だ、などといった声が渦巻いているようだ。

 解散権は首相の専権事項なので、首相でもその腹心でもない自民党議員が口にする解散時期に、どれだけ信ぴょう性があるのかは疑問だが、こればかりは菅さん以外は誰もわからない。各政党とも、万が一に備えて準備を始めるだろうが、実際に解散となれば各政党はどのような公約をかかげるのだろうか。

 1年前の2019年7月21日に投開票された参議院選挙では、主要政党が公約の中に日米地位協定に対する考え方を盛り込んだ。自民党は、在日米軍の事件・事故防止の徹底。公明党は、米軍関係者の凶悪犯の身柄を起訴前に日本側に引き渡すことの明記や米軍基地への日本側の立入権の確立を目指すとした。ただし、これら与党は、日米地位協定の改定までは踏み込んでいない。主要野党は逆に、日米地位協定改定や見直しを掲げた。

在日米軍の事件・事故防止に力を入れなかった安倍政権

 振り返れば、第2次以降の安倍内閣ほど在日米軍の事件・事故防止に力を入れなかった政権はなかった。実は官邸主導で日米地位協定に関連した二つの「補足協定」を成立させ、一つの「ガイドライン」を改定しているのだが、どちらも現状維持か現状の運用をむしろ後退させる結果しかもたらさなかったのだ。

 なぜ、安倍内閣はそんなことをしたのか。

 それは必ずしも意図した結果ではなかった。最大の問題は、安倍晋三首相と菅義偉官房長官の頭にあったのが政策ではなく政局だったことにある。裏を返せば、安倍首相も菅官房長官も選挙で自民党系候補を勝たせるために日米地位協定を利用したため、選挙日程に合わせて、合意が拙速にまとめられたことこそが、諸悪の根源なのである。以下、くわしく見ていこう。

知事選に向けて合意を急いだ環境補足協定

 2006年11月、沖縄知事選に当選した仲井眞弘多は、1996年に返還が合意された米海兵隊普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の県内移設を容認する立場だった。しかし、2010年の知事選では、民主党政権が普天間飛行場の県外移設を検討しながらも断念したことへの県内世論の反発を背景に、仲井眞知事は普天間県外移設を公約に掲げて再選する。

 ところが仲井眞知事は2013年12月末、前年末に民主党から政権を奪還した安倍首相と会談。①毎年3000億円台の振興予算、②普天間飛行場の5年以内の運用停止、③米海兵隊の輸送機MV-22(オスプレイ)24機の約半数の訓練の県外移転、④日米地位協定の補足協定の締結――などを条件に、政府が普天間飛行場の移設先としている辺野古沿岸部の埋め立てを承認する。

 安倍首相と菅官房長官は、仲井眞知事の3選がかかった2014年11月の知事選に合わせて、日米地位協定を補完する「環境補足協定」の締結について、バラク・オバマ政権との合意を急いだ。しかし、この知事選では、辺野古移設阻止を掲げた那覇市長の翁長雄志が、約10万票差で仲井眞を破った。

落選を伝えるテレビ報道を見る仲井真弘多氏(中央)=2014年11月16日、那覇市

 2014年10月に合意、翌15年9月末に成立した環境補足協定は、両国の情報共有(第2条)、環境基準の発出と維持(第3条)、環境事故や基地返還決定の後の調査のための基地立入手続き(第4条)、一方の要請による日米協議開始(第5条)を定めている。

 岸田文雄外相は、環境補足協定の成立当時、「日米地位協定そのものに環境に関する条項がなかったため、別途、環境補足協定」を締結し、第4条の立入手続きによって「現地調査を実効的に行うことができるようになる」と説明した。

自治体による基地の環境調査を制限

 ところが、環境補足協定の成立は、かえって自治体による基地の環境調査を従来よりも制限する結果となった。第4条で規定された、日本政府・自治体による米軍基地内立ち入りが、二つの場合に限られたためだ。

 一つは、米国から日本に環境事故の報告があった場合。もう一つは、

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