山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授
1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
日米地位協定を政局の道具として使った安倍政権。菅政権はどうか……
9月16日、安倍晋三首相の後任に菅義偉氏が選ばれた。国会周辺ではさっそく、衆議院が年内に解散される、いや10月には投開票だ、などといった声が渦巻いているようだ。
解散権は首相の専権事項なので、首相でもその腹心でもない自民党議員が口にする解散時期に、どれだけ信ぴょう性があるのかは疑問だが、こればかりは菅さん以外は誰もわからない。各政党とも、万が一に備えて準備を始めるだろうが、実際に解散となれば各政党はどのような公約をかかげるのだろうか。
1年前の2019年7月21日に投開票された参議院選挙では、主要政党が公約の中に日米地位協定に対する考え方を盛り込んだ。自民党は、在日米軍の事件・事故防止の徹底。公明党は、米軍関係者の凶悪犯の身柄を起訴前に日本側に引き渡すことの明記や米軍基地への日本側の立入権の確立を目指すとした。ただし、これら与党は、日米地位協定の改定までは踏み込んでいない。主要野党は逆に、日米地位協定改定や見直しを掲げた。
振り返れば、第2次以降の安倍内閣ほど在日米軍の事件・事故防止に力を入れなかった政権はなかった。実は官邸主導で日米地位協定に関連した二つの「補足協定」を成立させ、一つの「ガイドライン」を改定しているのだが、どちらも現状維持か現状の運用をむしろ後退させる結果しかもたらさなかったのだ。
なぜ、安倍内閣はそんなことをしたのか。
それは必ずしも意図した結果ではなかった。最大の問題は、安倍晋三首相と菅義偉官房長官の頭にあったのが政策ではなく政局だったことにある。裏を返せば、安倍首相も菅官房長官も選挙で自民党系候補を勝たせるために日米地位協定を利用したため、選挙日程に合わせて、合意が拙速にまとめられたことこそが、諸悪の根源なのである。以下、くわしく見ていこう。
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