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菅政権によるデジタル・ガバメントは失敗する!?

政府をオープンなものにする発想に欠けた安倍政権を継承するのか

塩原俊彦 高知大学准教授

 すでにこのサイトにおいて、「このままでは100%失敗する「行政手続きのデジタル化」:官僚の「テクノフォビア」を猛省せよ」「台湾に学べ:日本の遅れたデジタル・ガバメント政策:「開かれた政府」をめざさない安倍政権の不誠実」において、デジタル・ガバメントの問題を論じてきた。菅義偉首相の登場で、「デジタル庁」の設置などが話題になっている。ここでは、「仏つくって魂入れず」という日本のデジタル・ガバメント政策の根本問題について論じたい。課題に真正面から向き合い、誠実にその解決にあたらなければ、デジタル・ガバメント化は100%失敗するだろう。

拡大デジタル・ガバメント閣僚会議で発言する官房長官時代の菅義偉氏=2020年6月5日、首相官邸

課題1 オープン・ガバメント

 すでに「台湾に学べ」のなかで、「もっとも大切なのことは、デジタル・ガバメントが「開かれた政府」を意味する「オープン・ガバメント」を基本としていることである」と指摘した。そのうえで、

 「2011年に政府指導者や市民社会の支持者が「説明責任を果たし、責任感があり、包括的なガバナンスを推進する目的で「オープン・ガバメント・パートナーシップ」(OGP)を誕生させた。その中心メンバーは、米国、英国、ブラジル、インドネシアなど8カ国で、その後、20億人以上を代表する88カ国などが参加するまでに至っている」

 と書いておいた。

 このOGPに日本は加盟していない。安倍晋三首相は、同じく加盟していないロシアや中国並みの閉鎖された政府を前提にデジタル化の推進をはかろうとしていたのである。これでは、「デジタル化は100%失敗する」と断言できる。デジタル化は情報開示しやすい環境づくりがあってはじめて包括的な行政サービスを可能とするであり、政府にとって不都合な情報を隠して、ごく一部だけをデジタル化しても、それは政府の説明責任を果たすことにつながらない。

 安倍政権を継承する菅政権がOGP加盟を表明しなければ、どんなデジタル庁をつくっても、それはまったく不誠実なごまかしでしかない。

課題2 デジタルIDカードへの紐づけ

 いわゆる「デジタルIDカードへの紐づけ」、すなわち、このカードがあれば、納税も失業保険給付も年金受け取りもでき、結婚も離婚もでき、投票さえできるようになる、といった行政サービスの一元化をめざしてこの実現に真正面から取り組むべきである。

 政府をまったく信じていない筆者がこんなことを書くと、意外と思うかもしれない。しかし、しっかりとした規制を設ければ、政府の「ビッグブラザー化」(ジョージ・オーウェル の小説『1984 年』に登場する中央集権的権力による監視化)という不安は杞憂に終わるだろう。

 筆者が頭に浮かべているのはエストニアである。新型コロナウイルスによってもたらされたパンデミックのなか、エストニア国民は政府から給付金を受け取るために行列をつくる必要がなかった。インターネットによる投票さえ実現しているこの国では、デジタル化が進んでいる。もちろん、OGPのメンバーであり、積極的に「オープン・ガバメント」にも取り組んでいる。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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