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UAEのコロナ対策に見える市民監視とイスラエルの情報機関モサドの影

[2]イスラエルとの国交正常化で強調される「協力」は治安問題

川上泰徳 中東ジャーナリスト

 イスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化合意の調印式が9月15日にワシントンで行われた。トランプ大統領が8月13日に合意を発表して以来、両国関係では新型コロナウイルスの蔓延を防ぐための技術協力が表に出た。

 共同声明ではコロナ対策に1段落を当て、「UAEとイスラエルは新型コロナウイルス感染症の治療やワクチン開発に関して、即座に協力関係を加速し、拡大する」と強調していた。

 2日後の8月15日、UAEとイスラエルの企業がウイルス検査キットの改良で協力すると発表した。8月24日にはUAEとイスラエルの両保健相が電話会談を行い、新型コロナウイルス対策の協力を話し合った。コロナ対策が国交正常化の目玉として打ち出された。

 UAEはアブダビやドバイなど7首長国によって構成されている。商業の中心であるドバイが有名だが、石油や天然ガス資源の大半を持つアブダビが政治の実権を握っている。イスラエルとの国交正常化も、UAEの実質的な支配者であるアブダビのムハンマド皇太子の決断と考えられている。

 UAEでのコロナ蔓延は3月末に1日の新規陽性者が100人を超えて問題化した。4月末に1000人を超え、5月中旬には1700人台まで増えた。3月26日に出された夜間外出禁止令は、6月24日に解除されるまで続いた。

アラブ首長国連邦(UAE)の新型コロナウイルス感染状況(2020年9月13日時点) 出典:世界保健機関)アラブ首長国連邦(UAE)の新型コロナウイルス感染状況(2020年9月13日時点) 出典:世界保健機関

 UAEが外出禁止令を解除した翌日の6月25日に、イスラエルと新型コロナ対策で協力する合意が発表された。UAE外務省は「UAEの企業とイスラエルの企業がコロナ対策の研究、技術開発で協力合意に署名した」と発表した。

 イスラエルのネタニヤフ首相は「UAEとイスラエルの両保健相はコロナとの闘いの研究と開発、技術で協力する」と明らかにし、「この合意はこの数カ月間の幅広く、集中的な接触の結果である」と語った。この時の報道では、イスラエルのテレビ局が「対外情報機関モサドがこの合意を仲介した」と報じたのが目を引いた。

コロナ対策協力の背後にモサドの動き

 イスラエルの主要紙イェディオト・アハロノト系のニュースサイト「Yネット」は「イスラエルとUAEのコロナ対策での協力はこのように始まった」というタイトルで記事を掲載し、次のような記述があった。

 「3月26日、イスラエルで数十万のコロナ検査キットが足りなくなった時、ウクライナ航空の貨物機がベングリオン空港に到着した。同機は10万の検査キットを積んでいた。モサドが力を貸した特別機がどこから来たかは、これまで秘密にされていたが、それはUAEだった」

 記事では、「当時は政府の報道規制によって、『イスラエルとは外交関係のない国からの飛行機』とだけ報じることが認められた。飛行機はUAEのアブダビ空港から直接飛んできた」と補足した。国交正常化合意の5カ月前の3月に、イスラエルとUAEとのコロナ対策協力でモサドが動いていたということである。

AneloshutterstockUAEとイスラエルの協力関係の背後に、イスラエル諜報特務庁=モサドの影が見える(背景はモサドのマーク) Anelo/Shutterstock.com

 ここで疑問なのは、コロナ検査キットの調達という民生部門に、時には敵対組織の幹部の暗殺などで名前が挙がる情報機関のモサドがなぜ関わってくるのかということである。

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