伊東順子(いとう・じゅんこ) フリーライター・翻訳業
愛知県豊橋市生まれ。1990年に渡韓。著書に『韓国カルチャー──隣人の素顔と現在』(集英社新書)、『韓国 現地からの報告──セウォル号事件から文在寅政権まで』(ちくま新書)など、訳書に『搾取都市、ソウル──韓国最底辺住宅街の人びと』(イ・ヘミ著、筑摩書房)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
久しぶりに日韓を移動して感じたこと
8月、久しぶりに日韓を移動した。新型コロナウイルスによる入国制限が出てから初めて、2週間ずつの隔離なども条件づけられ、かつて経験したことのない旅となった。そのことを書く前に、最近のニュースについて少し。韓国の新型コロナ対策はどこかおかしいのではないか。この若者が不憫になったが、そう感じる私の方がおかしいのだろうか?
「うそつき塾講師、後悔の涙……懲役2年求刑」というタイトルを見て驚いた。9月15日の聯合ニュースだ。
「今年5月に新型コロナウイルス感染症にかかった後、保健所による疫学調査の過程で仕事と移動経路を偽った仁川市の塾講師に、検察が懲役刑を求刑しました」
びっくりして検索してみたら、他の地上波ニュースも同じような表現を使っていた。
「『うそつき塾講師』に懲役2年求刑……『一生謝罪』涙」(SBSニュース)
「事件」は有名で、韓国で暮らす人なら誰もが知っている。5月初めにソウルの梨泰院で起きた「クラブ発の感染爆発」。その感染者の中に24歳の塾講師(仮にAさんとしておく)がいた。クラスター発生の現場にゲイバー等も含まれていたため、そもそもこの件に関する韓国社会の偏見は強かった。当初、保健所の検査呼びかけに応じない人も多かったため、韓国政府は検査対象を特定店舗から地域全体に広げたが、その後も「梨泰院関連の感染者」に対する世間の目は冷ややかだった。
その中でも特にAさんが問題となったのは、彼は梨泰院からウイルスを持ち帰り、他地域に感染を広めたことによる。感染拡大の原因は「彼の嘘にある」というのが検察の判断だった。