菅首相への期待と不安~「ビスマルクのマント」をつかんだ強運と政治勘
日本の展望と指針を示すための作業に着手を。「経済計画」策定も一策
田中秀征 元経企庁長官 福山大学客員教授

就任後初の記者会見をする菅義偉首相=2020年9月16日午後9時26分、首相官邸
19世紀後半、ドイツ帝国で辣腕をふるい、「鉄血宰相」と称されたビスマルクは数々の名言を残している。そのなかのひとつに「ビスマルクのマント」がある。私にとって、学生時代から忘れられない言葉である。
話の大略を示そう。
「ビスマルクのマント」とは
政治家として打つ手打つ手が見事にあたるビスマルク。ドイツ統一を果たし、ヨーロッパ社会でも主導的な役割を果たしていた。あるとき、部下が「どうして閣下は、最適な判断や行動ができるのですか」とたずねると、こんな趣旨の返答をしたという。
――誰の傍らも、多くの「運命のマント」が通り過ぎていく。そのなかで最も必要なマントの裾をちょっとつかむだけで、状況は大きく変転して望む方向に進むものだ。
凡人は、あるいは運のない人は、つかむ必要のない、あるいはつかんではいけないマントの裾をつかんでしまう。だから、うまくいかないし、大失敗もする。ビスマルクはそうではなかった。つかむべき運命のマントをその手で的確につかんだ。
おそらく、運命のマントが見えるのは、確かな目標や志を持った人だけなのだろう。
この話のことがずっと頭にあった私は、20年ほど前のテレビ番組で、学生たちに送る言葉として「チャンスは黙って通り過ぎる」とパネルに書いた。意味するところは、「ビスマルクのマント」と同じである。それから10年ほど経ち、私のこの言葉によって人生が大きく変わったという人から、感謝の気持ちを伝えられ驚いたのを覚えている。