議員も市長も記者さえも「はりぼて」か
2020年09月25日
地方にいると、その腐敗ぶりは目を覆うばかりである。2016年に拙著『民意と政治の断絶はなぜ起きた:官僚支配の民主主義』(ポプラ社)を上梓してからしばらくすると、高知県四万十町の西原真衣議員(当時)からメールをもらった。それをきっかけに、彼女から地方自治のひどさを具体的に何度も伺った(詳しくは「呆れた議員達の行状」を参照)。同時に、市町村議会などを報道しないに等しいマスメディアの不甲斐なさについても事細かに教えてもらった。地方が日本の縮図とすれば、地方はまったく腐敗しており、それは日本全体にもあてはまる。まさに、「ニッポン不全」そのものということになる。
2020年9月10日、往復6時間かけて松山に出向き、映画「はりぼて」を観た。2016年8月に開局した富山県のチューリップテレビが「自民党会派の富山市議 政務活動費 事実と異なる報告」とスクープして以降のドキュメンタリーである。8カ月間に14人の議員が辞職したのだが、相次ぐ不正発覚で議員のなかには起訴されても議員を辞めず居座るようになる者も出る。議長が不祥事で辞めると、つぎの議長がまた不祥事で辞める。腐敗は自民党議員ばかりではない。事件発覚後の2017年の選挙で当選した者のなかにも、不正に手を染めていた者が複数いた。怒りがあきれに変わり、そして、あきらめにまで至る。
タイトルの「はりぼて」とは、中身がないことだが、空虚で空疎な日本の地方政治の実態が深く印象づけられる。それでは、具体的な「はりぼて」は何を意味するのか。議員も市長も記者さえも「はりぼて」と思えてくるのだが、有権者も「はりぼて」であることがインタビューへの無邪気な答えに現れている気がしてくる。
とくに印象に残っている3点について書いておきたい。第一は、チューリップテレビが行った議会議事録や公民館に申請した情報公開請求が追及を受けている側に筒抜けになっていた問題だ。地縁血縁で強く結びついている地方では、情報公開請求すると、請求者のプライバシーがまったく守られず、安易に侵害されてしまう。
こんなことをすれば、当然、地方公務員法第34条1項「職員は、職務上知り得た秘密を漏らしてはならない。その職を退いた後も、また、同様とする」に違反する。現職が守秘義務に違反すれば、懲戒処分や刑事の対象(1年以下の懲役または50万円以下の罰金)に処せられる。だが、地方で起こりやすい情報公開請求に伴う請求者のプライバシーを守るためには、地方公務員法とは別に、もっと厳格でしっかりとプライバシー保護につながる抑止体制を整えることが重要だと思うが、どうだろうか。
もう一つ印象に残ったのは、議会改革の不徹底ぶりである。今回の富山市議会の不祥事で、富山市は政務活動費の厳格な運用のほか、さまざまな議会改革を断行した。それらは「はじめの一歩」として高く評価すべきものだが、決して十分な改革とは言えない。たとえば、相変わらず、情報公開が不十分なのだ。
たしかに情報公開請求の手続きなしに、市議会の閲覧室で収支報告書等に関する書類の窓口閲覧が可能となった。だが、「領収書等の証拠書類の写し」を、インターネットを通じて簡単に入手ことはできない。筆者のような第三者が簡単に富山市の状況と高知市のそれを比較研究しようとしても、そう簡単にはゆかないのだ。せっかく改革するのであれば、ここまで踏み込んだ改革が望まれる。
富山市の事件では、チューリップテレビの情報公開請求が重要な役割を果たした。だからこそ、踏み込んだより先進的な情報公開が望まれるのだ。だが、当のチューリップテレビでは、事件を追ったキャスターが辞職してしまう。マスメディア自体が自民党によるプレッシャーのなかで苦悶し、腰砕けになっているような印象を強く受ける。それは、全国レベルでも同じであり、ニッポン不全の病巣をより深刻にしている。
最後に、印象に残ったのは、議員の居直りである。2019年4月、富山地検は村上和久元議長(自民)、中川勇元市議ら3人、合わせて4人を詐欺の罪で起訴した。同年7月、村上は初公判で起訴内容を否認し無罪を主張する。9月、富山地裁は中川勇、谷口寿一、市田隆一元市議に懲役1年6カ月執行猶予4年(いずれも求刑懲役1年6カ月)を言い渡したが、村上だけは無実を主張したため、公判中だ。村上は議員を継続している。
検察は、2016~2017年に辞職した市議14人のうち、この4人しか起訴して
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