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デジタル庁にぜひメスを入れてほしい超アナログな選挙現場の実態

昭和から時代が止まったかのような世界。デジタル化で「利便性」アップが不可欠

大濱﨑卓真 選挙コンサルタント

 菅義偉内閣がデジタル庁の創設に向けて動き出しました。23日には「デジタル改革関係閣僚会議」の初会合を開催。年末までに基本方針を決め、2021年の通常国会には関連法案を提出する構えです。あらゆる行政手続きが電子で行えるようになる電子国家構想やはんこ廃止といった構想を掲げ、菅首相も「デジタル化の利便性を実感できる社会をつくっていきたい」と強調しています。

 デジタル化と聞いて、真っ先に思うのは、筆者が身を置く選挙業界です。これまで幾度の法改正にもかかわらず、昭和から時代が止まったかのようなアナログの世界がつづいています。今回は、有権者からは見えない選挙の現場がいかにアナログで人力頼りかをお伝えします。「利便性を実感できる」よう、なによりデジタル化を進めてもらいたい分野だと思いますが、いかがでしょうか。

デジタル改革関係閣僚会議の初会合を終え、記者の質問に答える平井卓也デジタル改革相=2020年9月23日午前10時25分、首相官邸

大量の押印書類は“前世紀の遺物”

 選挙に関わって驚くのは、はんこを押さなければいけない書類の多さです。立候補することを決意した候補予定者は、選挙の約1カ月前に役所で行われる「立候補予定者説明会」に行き、必要書類を受け取ったうえで届出方法の説明を受けます。選挙種別によっても異なりますが、この立候補関係書類はかなり膨大、そして押印箇所が非常に多い。

 たとえば、日本各地の自治体で必ず4年に1回行われている地方議会議員選挙の立候補書類。手元で確認すると、届出書類の様式は最低でも15種類程度、押印箇所は25箇所程度ありました。これにくわえ、選挙運動用自動車やポスターを公費で賄(まかな)おうとすると、さらに15種類程度の書類に立候補者や事業者が押印しなければいけならず、負担がいっそう増します。

 立候補の手続きは告示(公示)日に行われますが、当日に立候補者の書類をチェックしていては時間がかかりすぎるので、一般には事前審査といって書類が完璧に出来上がっているかどうかをチェックする時間が別に設けられます。地方議会議員選挙の場合、提出する立候補者側の事務担当者と受け取る側の行政担当者がどれだけ慣れていても40分以上、衆院選などであれば書類の数がさらに多いため、1時間半以上かかるのがふつうです。

 民主主義の根幹をなす選挙ですから、些細なミスでも許されないことは当然ですが、入札や各種の届出が電子化されていくなか、選挙届出のあまりの煩雑さは、“前世紀の遺物”にもみえる「はんこ文化」のなせるわざだとつくづく感じます。

コロナ禍で目立ってきた法運用と実態の乖離

 コロナ禍を通じて、法運用と実態の乖離(かいり)も目立ってきました。たとえば立候補者と選挙ポスター業者・選挙運動用自動車のレンタル業者間とで締結する場合、押印済みの契約書の複写を選挙前に選挙管理委員会に提出する必要がありますが、業者のなかに電子印鑑システムを導入したり、契約書を締結せずにECサイトを通じて商品を購入させるショッピングカート方式を導入しているところが増えてきました。その場合、押印済みの契約書の複写が存在しなくなりますが、現在の法運用ではそれを想定していないため、窓口で解決できず、上級庁などに疑義照会を行うケースが増えています。

 また、立候補に際しては、立候補者の氏名の「読み」が、本来の「読み」通りに立候補届に書かれているかを確認する必要があります(投票用紙に候補者名がひらがなやカタカナで書かれた場合、それを有効票とするか無効票とするかの判断をするため)。ところが、立候補関係書類の一つで国籍の有無を確認する「戸籍謄本」には、氏名は書かれていても読みは書かれていません。住民票も法的に必須の項目ではありません。住民票に記載されるかどうかは自治体によってまちまちです(記載されることの方が多いようには感じますが)。

 ただ、現在はこの「読み」を確認するために、わざわざ候補者が住民票を発行手数料を負担して交付を受けたうえ、持参するように指示する選挙管理委員会が数多く存在します。この点は、住民基本台帳ネットワークシステムが整備されているのですから、立候補者本人が住民基本台帳カードを提示したうえで、職員がシステムを参照して「読み」が登録上一致しているかを確認すれば解決するはずです。

有権者に届けるツールも紙、紙、紙

image_vulture/shutterstock.com

 大量の様式に押印する手続きを経て、ようやく立候補した後の有権者とのコミュニケーションツールもまた、紙、紙、紙の連続です。

 たとえば皆さんにもおなじみの選挙ポスター。選挙の告示(公示)日、選挙ポスターを貼る人を見かけたことがあるかもしれませんが、自治体の規模にもよりますが、たとえば市議会議員選挙の数百箇所に散らばるポスター掲示場にポスターを貼りに行く作業は、人力作業の典型例です。事前に選挙ポスターは仕上がっているので、各候補者のポスターを掲示板に貼ってから、掲示板を設置すれば効率的と思うかもしれませんが、当日突然立候補する人もいるので、平等性の観点から今の運用になっています。

 これもデジタル化できないか。できます。

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