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イラン政府のコロナ対策に、国民の根深い不信感

[3]初期対応の失敗、感染者・死亡者数の信憑性に疑心暗鬼

川上泰徳 中東ジャーナリスト

爆発的に感染を拡大させた3要因

 まず、イランで急激に感染が拡大した背景にはいくつかの要因がある。

 第1の要因は、大規模感染が起こったのが、イランの国教であるイスラム教シーア派の聖地、宗教都市コムだったことである。ここにはシーア派の歴史的な宗教指導者の娘を祀ったファーティマ廟があり、イランの宗教教学の中心となっている。湾岸諸国やイラク、レバノンにあるシーア派社会から留学生や訪問者がコムを訪れる。

 コムでの感染と死者が発表されると、保健省は感染拡大防止のためにモスクでの礼拝自粛など緊急勧告を出した。ファーティマ廟では金曜日に集団礼拝がおこなわれるが、現地の宗教指導者はモスク閉鎖の提案は、廟の神聖さを汚そうとする敵の陰謀だと述べたという。イランは最高指導者ハメネイ師をはじめとして、シーア派宗教者が権力を持っており、聖地コムで始まったコロナの感染防止策を実施できなかった。

イスラム教シーア派の聖地コム Irtiza Hashmi/Shutterstock.com拡大イスラム教シーア派の聖地コム Irtiza Hashmi/Shutterstock.com

 第2の要因は、中国との関係である。コムでのコロナの発生源について、①コムにあるイスラム研究の学院や大学にいる700人ほどの中国人留学生、②コムで進められる開発事業を請け負っている中国企業の中国人労働者、③商用で中国の武漢を行き来しているイラン人ビジネスマン――などの説があるが、いずれもコムと中国の深い関係を示す。

 米外交専門誌「フォーリン・ポリシー」に掲載されたイラン人研究者のリポートによると、コムで最初の感染者が確認された後、コムにある大学の学長が「中国人留学生が感染拡大の要因」と独立系メディアのインタビューに語ったが、記事はすぐに削除されたという。さらに、イラン政府は中国への航空便を1月31日に停止したが、実際には革命防衛隊系の航空会社が2月23日まで中国便を運航していたという。

 イランは核開発問題をめぐって2015年に国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国の間で最終合意に達し、制裁解除が始まった。しかし、合意後に就任したトランプ大統領が2018年に合意からの離脱を宣言し、2019年5月、イラン原油の全面禁輸に踏み切った。

 米国の制裁が強まる中で、イラン原油の最大の輸入国である中国との連携の重要性が高まった。中国との関係を維持したいという政治的な思惑が、中国発祥のコロナへの対応が遅れる要因になったと指摘されている。

 第3の要因は、

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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

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