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「彼らは何を知っているのか」:ブラックライトで見てみよう

トラッキングを通じた情報収集から自分の身を守るには

塩原俊彦 高知大学准教授

 このサイトの記事「ロシアのスパイのやり口:FSBに拘束された経験者が語る「真実」」で書いたように、モスクワで拉致された経験がある。この際、筆者はコンピューターを一時、諜報機関である連邦保安局(FSB)によって押収された。4時間ほどの拘束後、コンピューターは返還されたが、その後、そのコンピューターに何かよからぬものが仕掛けられているかもしれないとの不安から、いまではそれを利用することはほとんどない。

不気味さ増すトラッキング

 こんな体験以降、インターネットを通じて、得体のしれない第三者が個人情報を盗んでいるのではないかという強迫観念が芽生えるようになる。そんな筆者だからこそ、2020年9月22日にアップロードされた「彼らが知っていること…いま:監視経済はますます気持ちの悪いものになっている」という記事にひかれた。書いたのは、ジュリア・アングウィンで、テクノロジーとそれに影響を受ける人々についての有意義なデータ中心のジャーナリズムを生み出すためにThe Markupという組織を創設した女性である。

 彼女は、2010年8月に「ウォールストリート・ジャーナル」で始めたデジタルプライバシーに関する「What They Know」シリーズを率いた人物で、かつてマイクロソフトがウェブブラウザのプライバシー保護を潰したことや、ユーザーの年齢や収入を特定するウェブトラッキング(追跡)があったことなどを暴露してきた。そんな彼女は、この記事のなかでつぎのように指摘している。

 「今日、トラッキングを通じて収集された情報は電子メールやソーシャルメディアのアカウントによって個人を特定することがより可能になっている。そして、監視はより不気味さを増し、それを止めるのがますます難しくなっている。」

「ブラックライト」の誕生

拡大Blacklightのサイトから

 こんな問題意識から、前記The Markupのデータ・ジャーナリスト、スーリヤ・マトゥが中心になって生まれたのが「ブラックライト」(Blacklight)と呼ばれる、リアルタイムのプライバシー検査ツールである。通常、目に見えないものに紫外線を照らして可視化するブラックライトにちなんでこう名づけられた。ブラックライトは、一般の人が見ることのできないインターネット監視インフラストラクチャの一部を照らすことができるというのだ。

 このブラックライトにURLを入力すると、入力したウェブサイトを調べて7つの異なるタイプのプライバシーを侵害方法の有無を診断できるテストが実行され、結果が示されるのである。彼女によれば、ブラックライトを用いて8万以上の人気のあるウェブサイトをスキャンしたところ、第三者のトラッキング技術が87%に搭載されていることがわかったという。


筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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