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大統領選挙に見る米国社会の国是をかけた争い

その混迷が今の国際社会の混乱を生んでいる

花田吉隆 元防衛大学校教授

トランプ米大統領(左)から最高裁判事の指名を受け、ホワイトハウスで話すバレット連邦高裁判事=2020年9月26日、ワシントン、ランハム裕子撮影

 米国大統領選挙が近づいている。11月3日まで約1カ月となった今日、なおその帰趨は予断を許さない。確かに、世論調査では、バイデン氏が6ポイント近く差をつけているものの、この差は縮小しつつあり、一部調査では、両者拮抗とするものも出てきた。何と言っても、前回の記憶が生々しい。前回、世論調査では、クリントン氏が勝っていた。それにもかかわらず、トランプ氏が勝利したが、これは、クリントン氏は得票数では上回ったものの選挙人の数で負けたからだ。さらに、隠れトランプの存在がある。世論調査の回答者の中に、正直にトランプ支持を回答することを忌避する風潮がある。それは、今回も変わらない。激戦州の帰趨もいまだ定まらず、さらには、コロナや失業、人種といった要素もこの1カ月の結果を左右しうる。

 国際社会でトランプ大統領を評価する向きはほとんどない。この4年の行動が物語る。国際社会の条約、協定にことごとく背を向けた。気候変動もイラン核合意もTPPも。自国第一主義を掲げ、米国の利益は追求するが国際社会の協力にはとんと関心がない。今のコロナ禍も、かつての米国なら国際社会を主導し感染症対策協力の枠組み作りに奔走しただろうが、今の米国にその気配はまるで感じられない。他国との関係は「ディール」と割り切り、対価として何を手に入れるかで全てが決まる。そこには、かつての秩序を維持する者としての自負が微塵も感じられない。国際社会は、もしトランプ氏の任期がさらに4年延びるようなら深刻なダメージを被りかねない、と考えている。そしてその可能性は否定できない。

 ところで、トランプ大統領は就任以来4年経過の現在なお、4割近い支持を誇る。この岩盤支持層ともいわれる強固な支持基盤は、トランプ氏が何を言おうが、また、何をしようが全く離反の気配を見せない。さすがに今回、コロナ対応を混迷させた時、支持に若干の揺らぎが見えたが、今となってはそれも修復、かつての支持率を回復した。国際社会から見れば、これ自体信じられないことだ。しかしそれは、まごうことなき事実であり、そうであれば、そこに「米国の本質的なもの」を見ざるを得ない。

トランプ氏は「世直しの旗手」

 米国民の半数近くが、トランプ氏以前の指導者は米国を誤った方向に導こうとした、と考えている。既に前回、2016年にさんざん議論されたことだが、それが今なお健在であるところに、これが米国の本質に触れる問題であることを示す。トランプ氏は米国社会の「世直しの旗手」なのだ。米国を誤った方向に導いたのは、リベラリスト、コスモポリタンと言われる民主党のエリートだ。権力をその手から奪い返さねばならない。

 これは米国が抱える古くて新しい問題だ。かつても同じことがあった。今起きているのはその繰り返しだ。

 米国建国の際、フェデラリストと反フェデラリストが対立したことはよく知られている。ハミルトン氏を代表とするフェデラリストは、商業利益を代弁、目を大西洋の方向に向けていた。つまり、米国の繁栄は、強い統合体の創設にあり、その統合体が他国と協調し国際主義を推進していくところにある、とする。これに対し、反フェデラリストは、農民利益を代弁、目を西部に向ける。統合は緩い形であるべきであり、他国との協調や国際主義より米国国内の発展をこそ目指すべきだ、とする。結局、この対立はフェデラリストが勝利するが、反対勢力の系譜は第3代のジェファーソン大統領、第7代のジャクソン大統領へと脈々と受け継がれていく。特に、ジャクソン大統領は、ジャクソニアン・デモクラシーの言葉があるとおり、農民こそが米国の基本であり、重心は西部に置かれるべきで、東部特権層が権力を壟断することはあってはならず、大衆こそが主権者でなければならない、とした。

 この対立が現在の米国社会にそのまま投影される。トランプ氏は言う。

 民主党を主導するリベラリストは高邁な理想を掲げ、人種平等や国際主義を言うが、東部エリートによる権力の壟断は、人種平等の名の下に白人層を不当に冷遇し、グローバル化推進により白人中間層を困窮に追いやった。

 リベラリストは言うことは立派で、国際社会の利益になるかもしれないが米国民の利益にはならない。非白人を米国社会に取り込んだはいいが、それにより社会はあらぬ方向に行ってしまった。ゲイが大手を振り、同性婚がまかり通り、教会がないがしろにされている。かつての自助を基本に据えた米国社会、家族が大切にされ、皆が勤勉に働き、教会で祈りをささげ明日の繁栄を誓う、あの古き良き米国社会はいったいどこに行ってしまったのか。

 伝統的な米国社会を支えていた白人中間層は、今や、グローバル化により見るも無残な生活に追いやられた。それは

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