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残念な菅内閣 国際潮流からかけ離れた女性閣僚たった2人

仏内閣の閣僚は男女同数。フィンランドは世界最年少の女性首相。国際機関も女性が進出

山口 昌子 在仏ジャーナリスト

 メディア各社の世論調査の支持率が軒並み高く(9月21日発表のNHKの世論調査は62%)、上々の船出となった菅義偉首相率いる新内閣だが、残念なことがある。女性の大臣が2人、副大臣も3人と少ないことだ。

 首相は外交分野に弱いとの指摘もあるが、まず認識してもらいたいのは、国際舞台では閣僚をはじめ国際機関などで活躍している女性が多いことだ。そのうち、電話会談ではなく、各国首脳らとの直接会談やG7をはじめ首脳会議も始まるはずだが、日本の女性閣僚の少なさがいかに国際潮流からかけ離れているか、たぶん実感できるだろう。

女性大臣2人に「スキャンダルだ!」

宮中での認証式を終え、記念撮影に並ぶ菅義偉首相(手前中央)と閣僚ら=2020年9月16日、皇居・宮殿「北車寄」、

 「これはスキャンダルだ!」。バカンスからパリに戻ってきた仏女性記者と久しぶりに会食したら、彼女はスマートフォンの写真を示しながら、そう叫んだ。彼女はテレビ局で20年のキャリアがあるベテラン記者だ。見ると、それは宮中での認証式を終えた菅義偉新内閣の記念写真だった。

 何がスキャンダルなのか? 心配になって眺めていたら、「これこれ!」と菅首相の隣に立つ上川洋子法相を指さす。ブリジット・マクロン大統領夫人の超ミニスカートを見慣れているフランス人からみると、ロングドレス姿がちょっと野暮ったいのかな。そう思って、「日本では、これが正装なんです」と説明しはじめたら、「ノン、ノン」と遮られた。

 「最初は女性閣僚が1人かと思って大ショックだったけれど、後列にもう一人発見したのでちょっと安心したけれど、それでもたった2人。少ないと思わないの?」と、彼女はカンカンだ。

 後列の女性は誰か。目をこらしてみると、五輪・女性活躍相の橋本聖子だった。女性の活躍を担当する役職とは裏腹に、モーニング姿で威儀を正したおじさんたちに囲まれて、顔がチラッとみえるだけで、うっかりすると見落としそうだ。

 閣僚20人のうち女性は2人。確かに少ない。副大臣も25人中3人だ。「すべての女性が輝く社会づくり」を標榜していた安倍晋三内閣の女性閣僚も決して多いとはいえかなかったが、菅首相も前首相に義理立てし、少数女性大臣も継承したのだろうか。

 日本の新聞、週刊誌の中には、五つの派閥別の閣僚数を熱心に報道したところはあるが、女性閣僚の少なさに注目したのは、特派員電やSNSだったとか。

男女の大臣が同数のカステックス内閣

 7月初旬に発足したフランスのジョン・カステックス内閣の閣僚は、男性8人に女性8人と男女が同数だ。閣外相(副大臣に相当)は、なんと女性9人、男性6人で女性が上回る。エドアール・フィリップ前内閣では男性9人で女性は8人だったが、法相、軍事相(2017年5月に発足したマクロン政権で国防相を軍事相に改称)、国土相、保健相、労相、海外県・海外領土相、欧州問題担当相、スポーツ相といった重職を女性が占めた。

 カステックス内閣もほぼ同様の陣容で、留任したフロランス・パルリ軍事相のように、政治家として予算担当相やブルゴーニュ地方の地方議会副議長を歴任したほか、エール・フランスや国鉄(SNCF)の幹部も務めるなど、男性そこのけの堂々たるキャリアの持ち主もいる。高級官僚養成所の国立行政院(ENA)卒のエリートなので、当然といえば当然だが。

 菅内閣で環境相に留任した小泉進次郎は内閣での環境相の順位が9位と低く、日本で環境問題が重視されていないことを嘆いていたが、フランスでは環境相の順位は外相に次いで2位だ。カステックス内閣では女性のバルバラ・ポンピリが就任した。彼女は環境政党ヨーロッパエコロジー・緑の党(EELV)の闘士だ。マクロン政権の環境政策の生ぬるさを堂々と批判もしている。

 閣僚の男女同数(パリテ)は、2007年の大統領選で右派中道政党・国民運動連合(UMP、現在の共和党=LR)の候補だったサルコジが公約、そのサルコジ政権(2007~12年)で実現し、オランド左派政権(12~17年)でも継承され、現在のマクロン政権に至る。

 大統領選は直接選挙なので、有権者の半数にあたる女性票を獲得することを目的にした当然の戦術ともいえる。日本の首相は、有権者が直接選ぶわけではなく、議会で選出されるという点も影響しているのかもしれない。

「政治は男の世界」を吹き飛ばしたマクロン

 フランスの国民議会(下院、定数577議席)の女性議員数も、マクロンが当選した2017年の大統領選直後の総選挙で224人(38.8%)と大躍進した。「パリテ」には一歩及ばなかったが、過去最高数だった。前回2012年の総選挙では115人(26.9%)と全体の四分の一だった女性議員が、さらに増えたかたちだ。

 女性の議員数が飛躍的に増えたのは、マクロンが「右でも左でも政党でもない」と定義する政治グループ「前進!」をひっさげて政界に新風を吹き込んだ結果、「政治は男の世界」という既成概念も吹き飛ばしたせいもある。

 ちなみに、1997年の女性議員数は約10%、ドゴール将軍が女性の参政権を認めた第2次大戦直後の45年の総選挙では5.6%だった。日本も派閥の論理によらず、政界ずれしていない新首相が誕生したときに、女性議員数も飛躍的に増えるかもしれない。

仏大統領にマクロン当選。パリ・ルーブル美術館の前に集まった支持者に向けて勝利宣言をするマクロン氏=2017年5月7日、杉本康弘撮影

憲法改正も女性議員増を後押し

 女性の議員数が急激に伸びた背景には、2008年の憲法改正もある。

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