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高齢者を孤絶させるコロナ禍社会の悲劇

花田吉隆 元防衛大学校教授

千里ニュータウン内の公園で毎朝行われているラジオ体操。マスク姿の高齢者たちが体を動かしていた=2020年5月9日、大阪府豊中市、柳谷政人撮影

 コロナ禍の中で高齢者が窒息気味だ。この先大丈夫か。

 感染が終息気味だという。専門家はなぜ終息しつつあるか、その原因がわからないという。経済との両立でこれだけ人が街に繰り出している。3密回避はどこへ行ったやら、どこもかしこも人で混雑だ。それにもかかわらず、マスク着用と手洗いで、感染の勢いが止まったというのか。見れば、若年層はコロナなど気にも留めないかのようだ。

 都心はいざ知らず東京近郊のレストランともなれば、週末は若年層でごった返す。店にもよるだろうが、個性的な、ちょっとしゃれたレストランなら若い女性客で満杯だ。ぎっしりと互いに間隔も開けず密接する席で、マスクなしに2時間、3時間と飽くことなくおしゃべりし続ける姿を見ると、これでは感染必至と早々に店を立ち去らざるを得ないが、そういうところでクラスターが発生したとはつゆ聞かない。3密回避はどうなったのか。

 そういう中、感染防止に神経をすり減らしているのが高齢者だ。何せ、重症化率が高い。抵抗力は低下気味で、もし感染すればどうなるかわからない。慎重に慎重を重ねるに越したことはない。

 かくて、緊急事態宣言が明け、世が経済との両立に向かい始め、Go Toが横行し、シルバーウィークで全国に人の往来が氾濫してなお、この層はひたすら自宅待機を続ける。さしたる趣味もない。年一回の旅行だけが楽しみだった。一日何もすることがないが、夕方近所のスポーツクラブに行き、仲間と取り留めのない会話をすることだけが楽しみだった。数カ月に一回、皆でカラオケに行き、ワイワイすることだけが息抜きだった。その全てが今、日程から消えた。ひたすら自粛だ。

スポーツクラブから姿を消した高齢者

 スポーツクラブは若者が筋力トレーニングにいそしむ所、というのは昔の話だ。遅い時間はそういう人も来るが、昼間や夕方の早い時間帯は比較的健康な高齢者が施設を占拠する。何せ他に行くところがない。体を動かし、病気にならないならこれほどいいことはない。朝からヨガ教室に太極拳、柔軟体操に気功と大忙しだ。スタジオのトレーナーの真ん前に陣取るのはいつも決まった高齢者の面々だ。今や、アクティブシニアという語もあるくらい高齢者は元気だ。

 その高齢者が、スポーツクラブから姿を消した。一時、スポーツクラブは感染の温床と言われた。狭いところに密集し、汗を流し、ハーハー息を吐く。これではいつ感染しても不思議でない。トレーニングが終わった後、サウナで汗を流し、仲間内と取り留めのない話をするのが楽しみだった。今はとんでもない。サウナは密室、狭い室内に大勢が座れば3密の代表だ。とてもこんなところに通うことはできない。

 かくてスポーツクラブ通いをやめてもう半年近くになる。生活が一変した。

 運動しない。あれほど熱心に通ったヨガ教室も太極拳教室もすっかりやめた。おかげで筋肉が硬直し血の巡りがすっかり悪くなった。

 人と話をしなくなった。家の中はいつも決まった話で終わる。サウナの中の腹を割った話が懐かしい。しかし、

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