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バイデン擁護の偏向報道に喝

米国のジャーナリズムにみる「道徳的明快さ」不足

塩原俊彦 高知大学准教授

 たぶん民主政治は白黒がはっきりつけにくいなかで、妥協の産物を探り合うゲームのようなものなのかもしれない。それでも、ジャーナリズムは「道徳的明快さ」に立脚して権力の横暴を問いただすことが必要なのではないか(この点については拙稿「「道徳的明快さ」が求められるジャーナリズム:客観性、中立性よりも大切な価値から再出発せよ」を参照)。

 こんな気持ちから、いまの米国のジャーナリズムをみると、まだまだ「道徳的明快さ」に欠けているようにみえる。ジョー・バイデン大統領候補を当選させるために、偏向した報道が平然と行われている現状に失望を禁じ得ない。もちろん、ドナルド・トランプ大統領の再選を望む者ではないが、「ニューヨークタイム」がぬけぬけとディスインフォメーション(意図的で不正確な情報)を流しているのをみると、憤怒をいだかざるをえない。

拡大ジョー・バイデン前副大統領

上院委員会の報告書

 2020年9月23日、米上院の国土安全保障・政府問題委員会と財務委員会の二人の委員長は報告書「ハンター・バイデン、ブリスマと腐敗:米政府と関連する懸念への影響」を公表した。

 ハンター・バイデンはバイデンの息子であり、バイデンが副大統領当時、担当していたウクライナに本拠を置く、民間石油ガス採掘会社ブリスマの取締役に2014年5月に就任する。ブリスマのオーナーであるムコラ・ズロチェフスキーに対するウクライナ検察庁の訴訟を止めさせる工作などにバイデン父子の腐敗があったのではないかとの疑惑などへの調査結果が出されたのである。

 これを受けて、「ニューヨーク・タイムズ電子版」は、「共和党の調査では、バイデンの不正行為の証拠はないことが判明」という見出しをつけた記事を配信した。その記事の出だしはつぎのとおりである。

 「ジョセフ・R・バイデン・ジュニアと彼の息子ハンターに対する汚職疑惑への上院共和党員による選挙期間中の調査では、前副大統領による不適切な影響ないし不正行為の証拠は見つからず、共和党幹部が民主党大統領候補の汚点となることを期待していた調査は終了した。」

 ほかの報道をみると、「ワシントン・ポスト電子版」は、「共和党上院議員の報告書によると、ハンター・バイデンのウクライナ企業での取締役の地位は「問題がある」とされたが、それが米国の政策を変えたことは示されていない」との見出しをつけて伝え、「ウォールストリート・ジャーナル」は「ハンター・バイデンのウクライナでの仕事はオバマ政権の関係者の懸念を高めたことが、共和党主導の調査で確認された」と報道した。

難しい報道

 この三つの記事を比べて思うのは、「ニューヨーク・タイムズ」の記事がバイデン擁護の姿勢によって歪められているのではないかということだ。実は、報告書には、ハンターがウクライナだけではなく中国やロシアとの関係においても、不透明な取引を行い、利益を得ていたことが書かれている。しかし、その事実については、まったく書かれていない。「ワシントン・ポスト」はこの二つの事例についても報じている。

 「道徳的明快さ」を重視する立場にたつと、「ニューヨーク・タイムズ」の記事はあまりにも道徳を軽視し、党派性を重視した歪んだ報道と批判されても仕方がないのではないかと思えてくる。

 なお、バイデン父子については、すでに二度、このサイトで紹介したことがある。「バイデンはウクライナ新興財閥の「屋根」か:脛に傷もつ父子を米民主党はどうする」「トランプ弾劾審議の源流はバイデン父子の腐敗問題:ウクライナ危機下のバイデン父子の動きを追うと見えてくる不都合な事実」)も参考にしてほしい。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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