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PEP規制の重要性:無知ほど怖いものはない

「傑出した公的役割をもつか、あるいは、そうした役割を委託された個人」による腐敗

塩原俊彦 高知大学准教授

 日本は世界の潮流から決定的に遅れている。その話をこのサイトで何度も書いてきた。今回は、Politically Exposed Person(PEP)について語りたい。直訳すれば、「政治的にむき出しの人物」とか「政治的攻撃にさらされる人物」だが、実際に意味しているのは「傑出した公的役割をもつか、あるいは、そうした役割を委託された個人」である。

 この定義は資金洗浄を防止する国際機関の金融活動作業部会(Financial Action Task Force, FATF)によっている(ただし外国人に限定)。FATFの説明では、その地位や影響力のために多くのPEPは、資金洗浄という犯罪や、腐敗や贈収賄を含む関連する犯罪を犯したり、同じくテロリストへの資金供給に関連する活動を行ったりする目的で、潜在的にその地位を濫用しうる立場にいる。だからこそ、PEPは「自分の利用のために政府の公的資金ないし他の財産から盗みを働く政府の指導者」である「クレプトクラート」とよく似ている(クレプトクラートについては拙稿「「クレプトクラート=泥棒政治家」と安倍首相:世界に広がる厳しい目」ですでに論じたので、そちらを参照してほしい)。

拡大Shutterstock.com

無知による混乱

 知る人ぞ知るPEPだが、この概念を知らないマスメディアが多すぎる。その結果、ちょっとした混乱や誤解が世界に広がっている。

 発端は、2020年9月14日、オーストラリアの公共放送、オーストラリア放送協会(ABC)が中国の国有企業「中国振華電子集団」傘下のデータ関連企業がオーストラリアや日本、欧米の政治家や軍事関係者、外交官、企業経営者ら約240万人の個人情報を収集していたと伝えたことである。このことは共同通信が報じている。これをきっかに、日本のTBSは25日、「そのなかには558人の日本人の名前も」あるとして、「安倍前総理や甘利元経産大臣ら国会議員の名前」を具体的に明らかにした。さらに、「個人情報の記載はないが、URLをクリックすると顔写真。一緒に見つかった別のリストには家族や親類の詳しい情報も書かれていた」と伝えている。

 ユーチューブには、オーストラリアに加えて中国と対立関係にあるインドなどからの関連ニュース(中国がスパイ活動を大々的に展開しているなど)動画がさかんにアップロードされるようになっている。たとえば、https://www.youtube.com/watch?v=83rYpGsjQYghttps://www.youtube.com/watch?v=D0Gf8Ci-ApQである。

 実は、「振華」側が得ていた情報の多くはオープンソースから得たものであり、一部はそうでないとの情報があるものの、何が問題なのか判然としない。いわゆる「お偉いさん」の家族や友人などの情報まで収集されていたと煽る報道もあるが、これから以下に論じるように、PEPの概念を知っていれば、家族や友人の情報を集めることは不正防止の観点からみれば当然ということになる。それを知らないために、議論が錯綜し、論点がぼやけてしまう。マスメディアは自らの無視を知ってか知らずか、対中脅威論や対中警戒論を煽る報道を垂れ流している。それに、無知な学者が加担している。

 そこでここでは、PEP概念を紹介し、「無知」による混乱を鎮静化させたいと思う。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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