東京オリパラを迎えることなく室伏広治氏に会長をバトンタッチ。
2020年10月08日
2015年10月1日にスポーツ庁が発足して以来、初めて長官が交代した。鈴木大地長官が5年の任期を満了、後任として東京医科歯科大学教授で東京オリンピック・パラリンピック組織委員会スポーツディレクターの室伏広治氏が着任した。五輪の金メダリストから金メダリストへのバトン・リレーは華やかだ。
「スポーツの振興その他のスポーツに関する施策の総合的な推進を図ることを任務とする」(文部科学省設置法第15条)と定められているスポーツ庁を率いる初代長官として、鈴木氏はどう評価されるべきか。本稿では、この5年間の氏の取り組みを、「IF役員倍増戦略」、「障害者スポーツ戦略」、「オリンピック対策」、「UNIVAS問題」の四つの観点から検討してみたい。
渡邊守成、大塚真一郎、太田雄貴3氏には幾つか共通点がある。お分かりだろうか?
答えは、競技は異なるが、みな2016年以降に国際競技団体(IF)の要職に就いていたということ。具体的には、渡邊氏は国際体操連盟会長、大塚氏は国際トライアスロン連合、太田氏は国際フェンシング連盟理事を務めている。そして、これは“鈴木体制”のスポーツ庁が始めた「IF役員倍増戦略」の成功例と言える。
IFの役員は名誉職ではない。規則の改定や大会の開催地の選定などに携わる。日本人がIFの役員になれば、様々な局面で日本の意向を反映させることが容易になるし、最新の情報も絶えず入手できる。くわえて、国際オリンピック委員会(IOC)にはオリンピック実施競技のIF会長向けに「IF会長枠」が設けられており、15人以下のIF会長がIOC委員に就任できる。
ちなみに渡邊氏は2018年、IOCのトーマス・バッハ会長の推薦でIOC委員となっている。日本にすれば一人でも多くのIF会長を誕生させ、IOCの内部で勢力を拡大することは大きなプラスになる。こうした状況を踏まえ、スポーツ庁が掲げたのが「IF役員倍増戦略」だった。
渡邊氏のケースを見てみよう。スポーツ庁は発足して間もなく、庁内序列第3位の審議官に外務省の木村徹也氏を任命、在外公館を通した各国のスポーツ団体への陳情活動などを担当させた。2015年度は7000万円、2016年度は1億円の予算を計上、IFにおける日本人幹部の数の増やすための取り組みを予算の面でも後押しした。
2016年の国際体操連盟の会長選で、スポーツ庁は約3500万円を使って在外公館を拠点に各国の関係者に陳情を行った結果、渡邊氏が対立候補のフランスのジョルジュ・グルゼク氏を100対19で破って会長の座についたのである。
スポーツにおける外交力の重要性を実証した「IF役員倍増戦略」は、鈴木長官時代のスポーツ庁にとって最大の成果であったと言えるだろう。
担当する部局が変わった背景には、2011年8月施行のスポーツ基本法が障害者の自主的かつ積極的なスポーツを推進するという理念を掲げたこと、さらにパラリンピックをはじめ障害者スポーツの競技性の向上があった。
換言すれば、厚生労働省で障害者福祉の一環と位置づけられていた障害者スポーツが、スポーツ庁のもとで競技と位置づけられたかたちである。競技性が認められたのは、障害者スポーツにとって画期的であった。
スポーツによる健康増進、地域活性化、障害者スポーツ、スポーツ関連産業の振興策などの推進を、重要政策とした点も見逃せない。
スポーツ庁が掲げる「スポーツの楽しさを子どもたちに実感させる」「高齢者や障害者が地域において継続的に運動できる環境を作る」「スポーツ無関心層への働きかけ」「優れたスポーツ指導者の育成」など、スポーツ庁が掲げる項目は、一見すると総花的だ。だが、これらはいずれも、2020年に開催されるはずだった東京オリンピック・パラリンピック後を見据え、スポーツ庁が打った布石でもあった。
発足当初、スポーツ庁はスポーツ政策を総合的に推進する機関であることを強く意識していたと言える。
スポーツ庁が2016年10月にまとめた「競技力強化のための今後の支援方針」、通称「鈴木プラン」は、2020年以降を見通した強力で持続可能な支援体制の構築を趣旨とするものであった。
「鈴木プラン」で最も重要なのは、
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