スポーツ庁初代長官・鈴木大地氏が退任。四つの観点から5年間を評価する
東京オリパラを迎えることなく室伏広治氏に会長をバトンタッチ。
鈴村裕輔 名城大学外国語学部准教授

スポーツ庁長官を退任。花束を受け取る鈴木大地長官=2020年9月30日、東京都千代田区(代表撮影)
2015年10月1日にスポーツ庁が発足して以来、初めて長官が交代した。鈴木大地長官が5年の任期を満了、後任として東京医科歯科大学教授で東京オリンピック・パラリンピック組織委員会スポーツディレクターの室伏広治氏が着任した。五輪の金メダリストから金メダリストへのバトン・リレーは華やかだ。
「スポーツの振興その他のスポーツに関する施策の総合的な推進を図ることを任務とする」(文部科学省設置法第15条)と定められているスポーツ庁を率いる初代長官として、鈴木氏はどう評価されるべきか。本稿では、この5年間の氏の取り組みを、「IF役員倍増戦略」、「障害者スポーツ戦略」、「オリンピック対策」、「UNIVAS問題」の四つの観点から検討してみたい。
最大の成果は「IF役員倍増戦略」
渡邊守成、大塚真一郎、太田雄貴3氏には幾つか共通点がある。お分かりだろうか?
答えは、競技は異なるが、みな2016年以降に国際競技団体(IF)の要職に就いていたということ。具体的には、渡邊氏は国際体操連盟会長、大塚氏は国際トライアスロン連合、太田氏は国際フェンシング連盟理事を務めている。そして、これは“鈴木体制”のスポーツ庁が始めた「IF役員倍増戦略」の成功例と言える。
IFの役員は名誉職ではない。規則の改定や大会の開催地の選定などに携わる。日本人がIFの役員になれば、様々な局面で日本の意向を反映させることが容易になるし、最新の情報も絶えず入手できる。くわえて、国際オリンピック委員会(IOC)にはオリンピック実施競技のIF会長向けに「IF会長枠」が設けられており、15人以下のIF会長がIOC委員に就任できる。
ちなみに渡邊氏は2018年、IOCのトーマス・バッハ会長の推薦でIOC委員となっている。日本にすれば一人でも多くのIF会長を誕生させ、IOCの内部で勢力を拡大することは大きなプラスになる。こうした状況を踏まえ、スポーツ庁が掲げたのが「IF役員倍増戦略」だった。
渡邊氏のケースを見てみよう。スポーツ庁は発足して間もなく、庁内序列第3位の審議官に外務省の木村徹也氏を任命、在外公館を通した各国のスポーツ団体への陳情活動などを担当させた。2015年度は7000万円、2016年度は1億円の予算を計上、IFにおける日本人幹部の数の増やすための取り組みを予算の面でも後押しした。
2016年の国際体操連盟の会長選で、スポーツ庁は約3500万円を使って在外公館を拠点に各国の関係者に陳情を行った結果、渡邊氏が対立候補のフランスのジョルジュ・グルゼク氏を100対19で破って会長の座についたのである。
スポーツにおける外交力の重要性を実証した「IF役員倍増戦略」は、鈴木長官時代のスポーツ庁にとって最大の成果であったと言えるだろう。