藤田直央(ふじた・なおたか) 朝日新聞編集委員(日本政治、外交、安全保障)
1972年生まれ。京都大学法学部卒。朝日新聞で主に政治部に所属。米ハーバード大学客員研究員、那覇総局員、外交・防衛担当キャップなどを経て2019年から現職。著書に北朝鮮問題での『エスカレーション』(岩波書店)、日独で取材した『ナショナリズムを陶冶する』(朝日新聞出版)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
【番外】ナショナリズム ドイツとは何か/壁崩壊が生んだ「平和革命」想起を呼びかけ
冷戦で東西に分断されていたドイツの再統一から30年になる10月3日、記念式典が首都ベルリン近郊のポツダムで開かれた。シュタインマイヤー大統領は演説で再統一後の光と影に言及。なお残る東西格差や欧州連合(EU)の動揺などの課題に触れつつ、自由と民主主義という観点からドイツの歴史を見つめ直し、未来への指針にしようと呼びかけた。
「ドイツとは何か」を考えるこの連載への理解を深めていただく上で示唆に富む内容であり、番外として全文を紹介したい。ドイツ語での演説を、ドイツ連邦大統領サイトに掲載された英訳から私がさらに和訳したため、意味が通りにくい部分もあるかと思う。ご助言をいただければありがたい。
30分にわたる演説は、コロナ禍への言及から始まった。私が取材でドイツを訪れた2月は感染拡大前だったが、今や死者は9500人超。1500人超の日本を大きく上回る。演説を伝える動画は、参加者らが間隔を空けて座る会場の様子も映していた。
私たちはみな、このドイツ統一30年を別の形で祝いたかった。ポツダムの数々のホールは満員で大きな祭りがあり、ドイツ各地や欧州の近隣諸国から何千もの人々が集まる。ドイツの多様性を現す祭りです。しかし、そうなりませんでした。私たちが慣れてしまったコロナウイルスのためです。統一の日の祭りを含む多くをパンデミック(大流行)が妨げました。
大きな祝い事はキャンセルされましたが、統一の日はなお重要です。喜び、回想、そして励ましの重要な瞬間です。私たちは(1990年の再統一をもたらした)平和革命を覚えています。(ベルリンの)壁の崩壊、国境での命を奪いかねない銃撃の終わり、国家(旧東ドイツ)による広範なスパイと指令の終わりを、喜びとともに思い出します。そして、1989年の秋に現れた勇敢な人々に励まされます。冷戦の終わりと新しい時代の幕開けを、感謝とともに振り返ります。
私たちは、ヨーロッパの中心で(旧東ドイツと旧西ドイツが)再び一つになり、自由で民主的な国に向けてともに旅してきた道を振り返ることができます。何という幸運、何という功績でしょう。この日にあたり私たちは誇らしく、この感覚をパンデミックが奪うことはできません。
会場から拍手が沸いた後、シュタインマイヤー大統領は歴史をさらに遡る。2020年は再統一30年にあたるとともに、近代国家としてドイツが初めて統一されてから約150年になる。そして同じドイツ統一の節目であっても、両者は「全く異なる」と語った。
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