花田吉隆(はなだ・よしたか) 元防衛大学校教授
在東ティモール特命全権大使、防衛大学校教授等を経て、早稲田大学非常勤講師。著書に「東ティモールの成功と国造りの課題」等。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
トランプ政権と菅政権に見る人事権という甘い誘惑
洋の東西を問わず、人事は人をコントロールするもっとも有効な手段だ。権力を握った者は、人事権という生殺与奪の権を手にする。当然、人事権は高次の目的達成に向けられたものでなければならず、間違っても邪(よこしま)な目的に使われてはならない。ところが現実は往々にしてそうでない。それが権力の不当行使であるとき、政権は次第に正統性を失い、ついには国民の信を失うことにもなる。そういう例は、歴史上枚挙にいとまがない。トランプ大統領による連邦最高裁判事の指名、及び、菅政権による日本学術会議人事への介入はこの種の危うさを孕(はら)む。
米国の場合、事の発端は、連邦最高裁判事を長期にわたり務めてきたリベラル派ルース・ギンズバーグ氏の死去だった。9月26日、トランプ大統領はその後任に、超保守派のエイミー・バレット氏を指名した。同氏は議会上院の承認を得て任命される手はずだが、共和党は大統領選挙前に任命手続きを終えることを目論み、民主党は新大統領こそが任命権を握るべきだとしてこれに抵抗する。現在、上院は過半数を共和党が占め、このままいくとトランプ氏のもくろみが成就する公算が強い。その影響は甚大で今後の米国社会を左右しかねない。
連邦最高裁はこれまで保守派とリベラル派が5対4で拮抗し、かろうじてバランスが保たれていた。それが、6対3で圧倒的に保守派に傾く。最高裁判事は終身職だ。弾劾以外は、自ら辞めるか死去しない限りその職にとどまり続けることができる。バレット氏は現在48歳。仮に前任のギンズバーグ氏同様、87歳まで判事のポストに止まるとすればその影響力は40年近く続くことになる。