神津里季生(こうづ・りきお) 連合会長
1956年東京都生まれ。東京大学教養学部卒。在学時は野球部マネジャー。79年、新日本製鐵に入社。84年に本社労働組合執行委員となり、専従役員の活動を始める。外務省と民間の人事交流で90年より3年間、在タイ日本大使館に勤務。その後、新日鐡労連会長、基幹労連中央執行委員長などを経て、2013年に連合会事務局長に就任、15年より同会長。近著に「神津式労働問題のレッスン」。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
神津里季生・山口二郎の往復書簡(11)「雇用と生活保障のセーフティネット」確立を
連合に寄せられる労働相談の件数は依然、前年を大きく上回っています。コロナショックによる影響は、有期、契約、パートタイム、派遣で働く方々やフリーランス等々、普段から弱い立場にある人ほど大きく、多少ゆるみがみられる世の中の雰囲気とは裏腹に、さらに懸念が高まっているのが実態です。連合としては、長年訴え続けてきた「雇用と生活保障のセーフティネット」を、早急に確立しなければなりません。
ここで強調したいのは、命とくらしを守るセーフティネットがわが国ではあまりに脆弱(ぜいじゃく)であることが、コロナ禍のもと、あらためて浮き彫りになっているという事実です。連合が新たな船出をした立憲民主党と「共有する『理念』―命とくらしを守る『新しい標準(ニューノーマル)』を創る―」を締結したのは、こうした危機感がベースにあります。
もちろん、私たち連合は「働く者本位」の政策を実現するための存在ですから、先生もご承知のように、野党の応援だけをしているわけでは毛頭ありません。結成以来、政府はもとより、自民党をはじめとする諸政党に対しても働きかけを繰り返しています。一国を代表する「ナショナルセンター」としては、どこの先進国でも当然行っていることです。
ときに、「野党の支援などやめて自民党に絞れば、要請ももっと受けとめられるのではないか」という声をいただくこともあります。そのような路線変更をしても、多くの連合の組合員には当面、なんら支障は生じないでしょう。産業政策などは、むしろよりダイレクトに政府・与党の政策に届くという印象をもたれるかもしれません。いっそのこと、選挙はすべて中立で、特定の政党とのかかわりを持たないという手もあるでしょう。
こういう素朴な質問は大事だと思います。どうして私たちはここまで政治にこだわりを持って取り組んでいるのか、自分たち労働組合の役員のなかでは自明の理であっても、その意は組合の内外に思ったようには伝わっていないという事実に、向き合わなければなりません。
以下は私なりの表現です。
欧州先進国の労働運動がその歴史の中で勝ち取ってきたことは、決して一党のみの長期政権に陥らない、政権交代の可能な政治体制でした。しかし、世界を見わたせばそれはまだ一部です。とくに開発途上国や共産主義国家の多くで、いまだに独裁的な政治体制が続き、人権はないがしろにされ、人々への抑圧は取り払われないままです。
一方わが国の現状を見ると、それらを他人事と言い切れるものとはとても思えません。
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