山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
無名で渡仏し才能を見いだされた不器用な青年の心は最後まで「あくまでも日本人」
高田賢三が4日、新型コロナウイルスの合併症によりパリ郊外の病院で亡くなった。81歳だった。日本のメディアは大々的に訃報(ふほう)を報じたが、実は第一報はフランス通信社(AFP)の至急報だった。日本のメディアはその後追い報道だ。
AFPが至急報で報じたのは「コロナ死」以前に、賢三、というよりKENZOが第一級の世界的デザイナーだったからだ。日本の民間人の訃報がAFPの至急報で報じられたのは1991年8月に死去した本田技研の本田宗一郎、99年10月死去のソニーの盛田昭夫ぐらいしか思い出せない。この二人と比べ、日本での生前の高田賢三はちょっと“不遇”だったのではなかろうか。
KENZOが日本でフランスほど認知されていないとつくづく思ったのは、報道がAFPの後追いになったことにくわえ、記事の中でフランスの最高勲章レジョン・ドヌール勲章シュバリエ章受章(2015年)に触れた日本のメディアが、寡聞にして見当たらなかったこともある。
同勲章は、フランス政府の枠組みでの受賞と、各国大使館、日本の場合は駐日フランス大使館の枠組みでの受賞の2種類ある。例外的に、勲章の最終的任命者であるフランス大統領からのじきじき授与される場合もある。
日本人の叙勲者の大半は、デザイナーをはじめ、企業人や外交官など、フランス大使館の枠組みでの受賞者だ。大使館に種々な働きかけを熱心にした結果、受章した者もいるとか。このフランス大使館枠組みの受章者は、日本で自ら、あるいは周辺が率先して発表するから、日本のメディアも知るところとなり、経歴にも明記される。
フランス政府の枠組みの受章者は、新年、復活祭、革命記念日(7月14日)の年に3回、進級組も含めて発表される。各省の受章推薦者を閣議で正式決定し、大統領が最終的に任命し、政令で名前が公布され、主要紙「フィガロ」などが発表する。
賢三は2015年、外人なので外務省推薦枠で受章した。書類審査の段階での外相はファビウス。翌年の授賞式は、ファビウスが憲法評議会議長に転任した後だったので、壮麗な憲法評議会で実施された。