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大阪入管トルコ人暴行骨折事件で、国が謝罪し再発防止を約束するまで

和解の経緯と残された課題

岩城あすか 情報誌「イマージュ」編集委員

事件の発端は「コミュニケーション」の齟齬

 尋問期日に弁護団から提出されたビデオを見ると、薬と水を小さな窓から手渡され、その場で飲むムラットさんの姿があった。

 その後、彼より年の若い大阪入管の職員が、口を大きく開けて舌を出しながら「ア、ア」とだけ言う。本当に服薬したかどうかを確認するための行為だというが、普段は自ら口を空けて服薬確認に協力していたムラットさんは、自分より年下の職員から挑発を受け、侮辱されたと感じたそうだ。

 「渡された頭痛薬を飲む様子を彼は目の前で見ていたのに、なぜまたそんな行為をさせようとするのか。『ア、ア』はトルコでは子どもに対して使う言葉。普通に『口を開けて』と言われたら応じようと、抗議の意で口をつぐんでいた」

 その後入管職員は他の職員らに応援を頼み、入れ替わり立ち替わり「おい」などと声をかける。だんまりを決め込んでいたムラットさんも苛立ち、(職員の方ではなく)誰もいない部屋のすみへ本を放り投げて怒りを示した。それをみた一人の職員は、肩をつかんで揺さぶった。

 収容場内にはエアコンがきいておらず(それだけでも大きな人権侵害だが)、上半身裸でいたムラットさんに他人が素手でさわる行為は、トルコのようなイスラム教圏ではタブーである。相手の同意なく「肌に触れる」、ましてや「つかんで揺らす」ことは、挑発や攻撃の意味をもつ。

 そのときまで黙っていたムラットさんは「私に触らないで!」と強く抗議した。しばらくすると大勢の人に抱えられるように、収容者の間で「懲罰室」と呼ばれている緑色のマットの部屋まで連れていかれた。

 その部屋に入るや否や、ある職員がムラットさんに足払いを仕掛けて倒し、その上に合計7人もの職員が次々と覆いかぶさる。右肘に関節技をかけられ、右腕を不自然にねじりあげられ、しばらくしてぐったり倒れこんでいるムラットさんは(本人によれば15分くらいは気絶していたそうだ)、後ろ手で手錠をかけられていた。

 「薬飲んだらちゃんと飲んだか確認いつもやってるでしょ。ね。それには応じてください。わかりましたか。話できる? 座って話できますか?」と一方的に話しかけたりする様子が明らかになった。

 ちなみに職員がしかけたこの関節技(肩関節を後ろからねじり上げる)は、弁護団や後遺障害認定をした医師によると、レスリングなどの格闘技では「ハンマーロック(Hammer Lock )」と呼ばれ、骨折等しやすく“危険技”として禁止されているそうだ(しかしハンマーロックは逮捕術における重要な拘束技術の一つだそうで、警察官や警備官は「逮捕術教育」の中でこの技術を教育されているという)。

 結果、ムラットさんは、右上腕骨近位端骨折(プレート固定術後肩関節拘縮)、右肘関節過伸展捻挫(靭帯関節包損傷の疑い)、上腕骨小頭および橈骨頭部骨軟骨骨折(骨挫傷)、右腋窩神経損傷後の怪我を負い、後遺障害も生じたと診断された。

提携病院では満足な医療を受けられず

 事件後気が付いたムラットさんは、激しい痛みから骨折を疑い、「病院へ行きたい」と強く主張するも、最初は看護師が氷まくらをもってきただけだったという。

 それでも強く訴えたところ、ようやく受診がかなった。翌日(13日)に入院、翌々日(14日)に手術を受けた(このときの処置方法も、後遺障害認定をおこなった医師によると、必要以上に大がかりな手術が行われており、疑問が残るとのこと)。

 7月18日に退院した後は、大阪入管での収容が再開される。その後、通院は月に1回程度しか認められず、通院時に通訳者が同席することもなかった。リハビリを希望しても、理学療法士が関与することなく、医師からは「自分で適当に動かしておいて」と言われただけだという。

 ムラットさんいわく、「どんなリハビリ方法かわからなかいから聞いているのに、見捨てられていると感じた」。

 入管は、収容という行為で自由を奪う以上、被収容者が罹病し、または負傷したときは、医師の診察を受けさせ、病状により適切な措置を講じる義務を負っている(被収容者処遇規則第30条)。加害者であるというべき大阪入管がこの義務を怠っていたという事実は、深く反省されるべきである。

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筆者

岩城あすか

岩城あすか(いわき・あすか) 情報誌「イマージュ」編集委員

大阪外国語大学でトルコ語を学んだ後、トルコ共和国イスタンブール大学(院)に留学(1997年~2001年)。通訳やマスコミのコーディネーターをしながら、1999年におきた「トルコ北西部地震」の復興支援事業にもボランティアとして関わる。現在は(公財)箕面市国際交流協会で地域の国際化を促す様々な事業に取り組むほか、重度の障碍者のみで構成される劇団「態変」の発行する情報誌「イマージュ」(年3回発行)の編集にも携わっている。箕面市立多文化交流センター館長。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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