2020年10月09日
菅政権が誕生した。7年8ヶ月に及んだ安倍政権の後継として、久々の政権交代となった。国民の期待も高く、政府・与党として、この期待にしっかり応えていきたい。
今回の論考では、菅政権の経済政策の方向性を、私なりの切り口で整理し、国民の皆様やメディアへの問題提起を行いたい。
菅総理は、安倍政権の経済政策を継承することを強調している。同時に、携帯電話料金の引き下げ、不妊治療への保険適用、デジタル庁の創設など、菅総理ならではの新機軸も打ち出している。
菅総理の経済政策を「スガノミクス」と呼ぶ報道も増えつつある。しかし、その内容や評価には混乱が見られる。メディアも、スガノミクスの本質をつかみかねているように感じる。
菅総理は、自助の大切さ、競争の重要性を指摘している。役所の縦割り打破の必要性も強調している。これらは、一見すると、かつての小泉総理が推進した、「官から民へ」「構造改革」路線に通じるところがある。
このため、菅政権に批判的な論者は、市場重視、弱者切り捨て、といった批判を行っているようだ。
しかし、この批判は短絡的に過ぎる。菅総理が小さな政府を目指しているのかというと、そうではない部分も多い。
例えば、不妊治療への保険適用や待機児童の解消といった施策には、公費や社会保険からの歳出増が伴う。菅総理は、少子化対策には思い切った財政投入を行う方針を示したと言える。
また、菅総理の持論である最低賃金の引上げは、政府が企業の賃金水準に介入する施策であり、米国なら民主党、英国なら労働党といった、大きな政府を掲げるリベラル勢力が推進する施策である。
携帯電話料金の引き下げも、民間企業のサービスの価格に対する施策であり、決して市場万能主義ではない。
Go Toキャンペーンをはじめとする観光振興や、中小企業の再編といった施策も、市場に任せる施策というより、政府が積極的に関わる施策である。
このように、スガノミクスには、経済政策に関する従来の対立軸にうまくあてはまらない部分が多い。
しかし、視点を変えて、政治の論理から見ると、スガノミクスがきれいに整理できることが分かる。
スガノミクスの本質。それは、日本の民主主義のかたちが、55年体制から、官邸主導へと移行したことを踏まえて、供給者の視点ではなく、国民の目線に徹底的に拘るところにある。
この点を理解していただくために、まずは、過去30年間の政治改革の流れをおさらいしておきたい。
平成の政治改革は、「与党主導」の政策決定を、「総理主導」へと転換することを目指してきた。
55年体制の自民党一党支配の下では、様々な分野で政・財・官の「鉄のトライアングル」が形成され、強力な既得権益が必要な改革を阻んでいた。
これに対し、平成の政治改革は、総選挙で国民の信認を得た総理が強いリーダーシップを発揮し、族議員や業界団体の反対を乗り越えて大胆な改革を進めることが出来る仕組みの実現を目指してきた。
平成の30年間に、小選挙区制の導入、省庁再編による官邸機能の強化、内閣人事局による官僚人事の統制など、累次にわたり制度改革が進められた。
こうした政治改革の効果をフル活用し、小泉政権と安倍政権において、総理主導への転換が実現した。
菅総理は、官房長官として、安倍政権における総理主導の完成に貢献した中心人物である。
そもそも、なぜ、こうした政治改革が必要だったのか。
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