メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

パンケーキとグループ・インタビュー/菅首相と政治部記者の歪んだ関係

内閣記者会の記者たちは、もう一度初心に立ち返り真実を追求する志を取り戻すべきだ

佐藤章 ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

首相は果たして任命拒否できるのか

 学術会議の会員は3年に一度、定数210人の半数が交代するが、今回、学術会議が官邸に提出した105人の推薦候補のうち6人が任命されなかった。

 このことの大きい問題点は次の3点にある。

 第一に、菅首相は果たして任命拒否できるのか。越権行為ではないのか、という疑問点だ。

 学術会議は1949年に創設され、翌50年には「戦争を目的とする科学の研究は絶対にこれを行わない」という声明を出し、67年にも「軍事目的のための科学研究を行わない声明」を発している。

 さらに2017年には、「軍事的な手段による国家の安全保障にかかわる研究が、学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にある」として、先に記した二つの声明を継承することを宣言している。

 対中戦争から太平洋戦争に駆け下った政府に協力してしまった戦前科学界への痛切な反省が学術会議創設の精神を形作っており、そのことが「学問の自由及び学術の健全な発展」という考え方に背骨のようにつながっている。

 この「学問の自由」という言葉は憲法23条の「学問の自由は、これを保障する」という条項から来ている。何者からも圧迫を受けない「学問の自由」が失われた時、その国や国民は未来への探照灯を失う。

 「学問の自由」を掲げる学術会議の人事に介入することは、こうした圧迫以外の何物でもない。

拡大首相官邸前で、日本学術会議が推薦した会員候補が任命されなかった問題について抗議する人たち=2020年10月6日夜、東京・永田町

 1983年、内閣法制局は学術会議に関係する想定問答をまとめ、首相の任命は「実質任命であるのか」という想定の問いに対して「推薦人の推薦に基づいて会員を任命することとなっており、形式的任命である」と明確に記している。

 当時の中曽根康弘首相も「政府が行うのは形式的任命にすぎません」と国会で答弁している。これは当然ながら憲法23条の趣旨と学術会議創設の精神を重く踏まえたもので、これまで唯一の有権解釈とされてきた。

 ところが、第2次安倍晋三内閣になって雲行きが変わった。

法解釈はいつ変わったのか

 駆け足で振り返ってみると、2014年7月に集団的自衛権の行使容認を閣議決定、翌15年9月に集団的自衛権を含む安全保障関連法が成立。この動きと並行して14年4月に、それまでの武器輸出三原則が防衛装備移転三原則に変わり、武器輸出や武器の国際共同開発ができるようになった。この新三原則の狙いは日本の防衛産業の育成にあり、15年10月、武器輸出や共同開発などを管理する防衛装備庁が発足した。

 学術会議が2017年に改めて、戦争目的の科学研究を行わないとする声明の継承を宣言したのは、このような安倍政権の動きに危機感を抱いたからだ。

 これまでの報道を整理すると、安倍政権と学術会議の緊張関係が表面化したのは2016年夏。欠員を埋める補充人事で3つのポストに各2人ずつ候補者を提出したが、安倍官邸は難色を示し欠員となった。

 さらに2018年には日本学術会議法を所管する内閣府から内閣法制局に対して法解釈の問い合わせがあり、安倍政権末期の先月上旬にも再度問い合わせていた。

 ここで最大の疑問点は、中曽根内閣時の内閣法制局が内部文書で示していた「首相の任命は実質任命ではなく、形式的任命」であるとする有権解釈が変わったのかどうか、変わったとすればいつの段階で変わったのか、さらに言えば、なぜ変える必要があったのか、ということだ。

 もちろん、これらの疑問点に対する回答は国会で明らかにしなければならない。菅首相は、学術会議には政府予算が出ており任命権は首相にあるとしているが、その実質的な権限が生じるのは、前記のようにこれまでの有権解釈が変更された経緯や理由が国会で議論され、国民が納得してからだ。

 この意味で、「菅首相は果たして任命拒否できるのか。越権行為ではないのか」という第一の問題点については何一つクリアされていない。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

佐藤章

佐藤章(さとう・あきら) ジャーナリスト 元朝日新聞記者 五月書房新社編集委員会委員長

ジャーナリスト学校主任研究員を最後に朝日新聞社を退職。朝日新聞社では、東京・大阪経済部、AERA編集部、週刊朝日編集部など。退職後、慶應義塾大学非常勤講師(ジャーナリズム専攻)、五月書房新社取締役・編集委員会委員長。最近著に『職業政治家 小沢一郎』(朝日新聞出版)。その他の著書に『ドキュメント金融破綻』(岩波書店)、『関西国際空港』(中公新書)、『ドストエフスキーの黙示録』(朝日新聞社)など多数。共著に『新聞と戦争』(朝日新聞社)、『圧倒的! リベラリズム宣言』(五月書房新社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

佐藤章の記事

もっと見る