デジタル教科書は「ネット・バカ」を生み出すだけではないのか
2020年10月12日
2020年10月6日付の朝日新聞デジタルの「「教科書、原則デジタル化を」平井デジタル相らが要求」によると、平井卓也デジタル改革相と河野太郎行政改革相は6日、教科書の原則デジタル化や規制緩和など教育分野のデジタル対応を加速するよう文部科学省に求めたという。このニュースを知って痛切に感じるのは、教育をビジネス化しようとする人々のよからぬ下心である。
まず、小学校から大学まで、教科書は出版業界にとって少なくともこれまでは「打ち出の小槌」のような存在であったことを思い起こしてほしい。とくに、一般書籍の販売が頭打ちになっているなかで、紙でできたこれまでの教科書は「おいしい」商品だった。少子化で教科書出版業界も厳しさを増しているが、それでも教科書がビジネスそのもののネタであることを忘れてはならない。
文部科学省は、国・公・私立の義務教育諸学校に在学している全児童生徒に対し、その使用する全教科について国の負担で教科書を無償給与している。2019年度の場合、無償給与に関する予算額は448億円で、約971万人の児童生徒に対して合計約1億冊の教科書が給与された。教科書の需要数は1985年に2億冊を超えていたことを考えると、出版社も大変だが、教科書が紙媒体から電子媒体に変われば、出版社の受ける打撃は計り知れない。
ゆえに、出版社が教科書のデジタル化を少しでも遅らせ、ビジネス利益を確保しようとしてきたのではないかと疑われる。あるいは、出版社が自らデジタル教科書を手掛けるための時間稼ぎにデジタル化の先延ばしを求めてきたのではないか、と推察される。
2016年度から公立中学校で使用される英語の教科書をめぐり、三省堂が2014年8月、全国の公立小中学校の校長ら11人に部外秘の検定中教科書を閲覧させ、編集手当名目で5万円の謝礼を渡していたことが2015年に明らかになった。教科書採択工作の面をもった事実上の贈収賄事件と言える。こんなことまでしてきた出版社であるならば、あらゆる手段で教科書のデジタル化の流れを食い止めようとしてきたに違いない。
文科省は2019年12月、閣議決定された2019年度補正予算案に、児童生徒向けの一人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備するための経費を盛り込んだ。これにより、子どもへの一人1台の端末と高速・大容量の通信ネットワークを一体的に整備した教育環境を実現する計画(Global and Innovation Gateway for All, GIGA)の実現に向けてデジタル教科書化の推進も本格化した。
この流れの延長線上で、文科省初等中等教育局長は2020年6月、「デジタル教科書の今後の在り方等に関する検討会議」の設置を決めた。その第1回会議で配布された資料に今後のスケジュールが示されている。それによると、GIGAスクール構想の実現と並行するかたちでデジタル教科書の導入を拡大し、2024年度の小学校の教科書改訂に合わせてデジタル教科書を本格導入するという計画が想定されていた
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