市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員
1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。
学術会議を闇討ちした菅政権のスタートダッシュ
菅氏が首相就任後、主体的に動いて物議を醸したのは初めてだが、安倍晋三・前首相時代の官房長官として、安倍氏が放置したまま去った「オトモダチ疑惑」にも深く関与してきた過去を振り返らざるを得ない。
森友学園や加計学園に有利になるように側近や官僚を忖度させた疑惑、証拠となる公文書を改竄させた疑惑。内閣法制局長官に慣例とは違う人物を登用し、集団的自衛権を容認させようとした問題。桜を見る会の招待客を膨らませ続け、事実上、後援会サービスになっていた問題。高検検事長の定年を無理に延ばしてまで検事総長の座につけようとした問題……。
これらには、いくつかの共通点があった。
首相のような権力者になったら襟を正し、かえって「オトモダチ」とは疎遠な関係を保つ――といった美しい日本の伝統を破壊した。側近も、経済界も、学者も、ジャーナリストも、オトモダチで固めることに躊躇することがなかった。
さらに、これらの問題が表沙汰になったのは、報道や告発、野党側からの指摘が発端で、政権側から国会や国民に発信されたものではなかったということだ。
逆に言えば、野党やジャーナリズムや告発者がいなければ、好き放題、知らぬ存ぜぬで通ってしまったかもしれない問題だった。
たまたま疑惑が明らかになった時は、「憲法や法律違反には当たらない」「指摘は当たらない」「個々の人事の件にはコメントしない」とひたすら繰り返し、時間が経つのを待つ。これらの決まり文句を「丁寧な説明」と定義し、いつのまにか「議論は尽くされた」と総括する。
こんな性格の前政権を引き継いだ菅氏は、果たしてどのような初動、スタートダッシュを見せてくれるかと楽しみにしていたら、オトモダチ疑惑の続編として日本学術会議問題が勃発した。
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