学術会議の権威も菅政権の権威もともに失墜してしまう事態を収拾するために
2020年10月09日
菅義偉政権が9月中旬の発足から1カ月を待たず、日本学術会議が推薦した会員候補6人が任命されなかった問題をめぐり、苦境に立っている。
そもそもこの件は、政権側の恣意的な法解釈によって、一気に強引に押し切れるような案件ではない。対応次第では、菅政権が得ているせっかくの高い国民的支持が失われかねないおそれがある。出直したほうがいい。
一体、この問題をこのように扱えば、世論の分断と反発を招くことは、十二分に予想できたはずだ。もし今回の混乱が「想定外」であったとすれば、菅政権がいまの日本の世論の動向を正確に読み取る力が乏しかったと言わざるを得ない。
さらに、今回のように世論の動きを洞察することができないとすれば、今後の政権運営にも不安感がつきまとうことになる。いずれにせよこの局面は、“首相の愚直さ”によって打開するほかはないと思う。
政府(内閣府)は10月6日、2018年に学術会議事務局が作成した会員任命に関する内部文書を公表した。この文書では、会員は特別職の国家公務員であることを踏まえ、首相が学術会議の推薦通りに会員を任命する義務があるとまでは言えないとしており、会議の人事への政権の介入を正当化している。
しかし、こうした見解を公表するなら、今回の人事を行う前にするべきだろう。多くの議論を経てならともかく、ことが問題化した後に公にされても、不信感がさらに強まるだけである。
1983年、当時の中曽根康弘首相は国会で、学術会議の会員の任命が「政府の形式的行為」であることを明言した。形だけの推薦制であり、学会から推薦された人は拒否しないということだ。拒否しないということだ。翌84年にも同様の発言を繰り返している。
当時、私は衆議院議員だったが、この発言によって中曽根首相に対する信頼感が強まったことを記憶している。それまで、中曽根首相が学問の自由、学術会議の独立性や中立性の維持に熱心な人だとは思っていなかったから、なおさらだった。
経歴をたどれば、菅首相は当時、中曽根内閣の小此木彦三郎通産相の秘書官だった。小此木氏は中曽根派の重鎮として、首相の判断に全面的に同調していたはずである。当時の菅氏はどう考えていたのだろうか。
現在、野党は6人が任命されなかった理由を説明するよう強く要求している。それは当然の要求といえるが、その要求を受け入れても菅政権は苦境を打開できないだろう。ましてや、説明を拒否したり、自由な記者会見を回避したりすれば、事態は悪化する一方に違いない。
菅首相が強引に今の対応を貫いても事態が解決しないと思われるのはなぜか? それは学術会議全体がそれでは収まらないからだ。むしろ、混乱はより広く深く拡大するだろう。
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