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パレスチナ自治区――占領下で増幅するコロナ禍と医療体制の危機

[5]イスラエルによる家屋破壊、暴力、電気事情の悪化……

川上泰徳 中東ジャーナリスト

建設中のPCRセンターをイスラエル軍が破壊

 西岸とガザは、感染拡大を防ぐためにできる限りのPCR検査と、濃厚接触者の隔離政策、さらに陽性者が増えたら先手を打って外出禁止令を出すという予防的措置によって感染を抑え込んできた。しかし、6月初めに外出規制が緩和されると、下旬から陽性者が増え始めた。

 西岸での感染拡大の中心となったのは、南部の都市ヘブロンである。6月17日~30日の西岸の全陽性者のなかでヘブロンは58%、7月1日~14日では66%を占めた。国連人道問題調整事務所の報告は、ヘブロンでコロナ感染が広がった原因として、「5月以降の自治政府によるイスラエルとの治安協力の停止」を指摘した。

ヨルダン川西岸地区ヘブロンのユダヤ人入植地。通りにはイスラエル国旗がはためく拡大ヨルダン川西岸の都市ヘブロンのユダヤ人入植地。通りにはイスラエル国旗がはためく

 イスラエルのネタニヤフ首相が5月中旬に、西岸の30%に当たる地域を7月以降に一方的に併合を始めると発表した。それに対して自治政府は、1993年にPLOとイスラエルが結んだパレスチナ暫定自治協定(オスロ合意)に反する動きとして、イスラエル軍との治安協力の停止を表明した。

 西岸は自治政府が治安と行政を管轄するA地区(面積の約18%)と、自治政府が行政は管轄するが治安はイスラエル軍と自治政府が協力するB地区(約21%)、イスラエル軍が支配するC地区(61%)に分けられている。

 ヘブロンは市中心部と周辺にユダヤ人入植地がある。都市部はA地区だが、ユダヤ人入植地はC地区にあり、さらに周辺の農村部はB地区。自治政府の権限は入植地によって大きく制約されている。自治政府とイスラエルの治安協力が停止され、外出規制など自治政府のコロナ対策がヘブロン周辺の村々では実施されないことになり、結果的にコロナ感染の拡大を招いたわけである。

 ヘブロンの都市部のはずれであるC地区で、6月下旬にコロナ感染対策としてヘブロン市と住民が協力して建設していたPCRセンターがイスラエル軍に破壊された。

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筆者

川上泰徳

川上泰徳(かわかみ・やすのり) 中東ジャーナリスト

長崎県生まれ。1981年、朝日新聞入社。学芸部を経て、エルサレム支局長、中東アフリカ総局長、編集委員、論説委員、機動特派員などを歴任。2014年秋、2度目の中東アフリカ総局長を終え、2015年1月に退職し、フリーのジャーナリストに。元Asahi中東マガジン編集人。2002年、中東報道でボーン・上田記念国際記者賞受賞。著書に『シャティーラの記憶――パレスチナ難民キャンプの70年』(岩波書店)、『イラク零年――朝日新聞特派員の報告』(朝日新聞社)、『現地発 エジプト革命――中東民主化のゆくえ』(岩波ブックレット)、『イスラムを生きる人びと――伝統と「革命」のあいだで』(岩波書店)、『中東の現場を歩く――激動20年の取材のディテール』(合同出版)、『「イスラム国」はテロの元凶ではない――グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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