「下部構造」がないからアイデアも出ない~2大政党が育たない理由
政権交代、首相交代……。松井孝治が思うこと(中)
松井孝治 慶應義塾大学教授・元官房副長官・創発プラットフォーム理事
政治は動かなかった。「令和臨調」で改革を動かそう/政権交代、首相交代……。松井孝治が思うこと(上)
できなかった「政策に投資する政党文化」
――政党政治も立て直していかなければなりません。いまの野党には、わかりやすいかたちで政策パッケージを提示できる政策立案機能がないのでは。かつての民主党よりも、ないかもしれません。
ないですね。「死んだ子の年を数える」みたいな話ですけど、政治家時代に、亡くなった仙谷由人さんといろんな議論をしたんです。
たとえば「チルドレンファースト」というスローガンをつくり、子どもたちの将来に投資するために、どう資源配分を変えるか議論した。2003年くらいから「スローガンだけではだめだ。政策を仕込む人材群が必要ですよね」という話をしだして、2005年に「公共政策プラットフォーム」、通称プラトンというシンクタンクをつくり、自民党もシンクタンクをつくりました。「2大政党として、政策でしのぎを削るために、人とお金を投資する。そういう政党文化をつくりましょうよ」と言っていたのが15年前なんですよ。
ところが、民主党でいえば前原誠司代表がメール問題で失脚したあと、代わった小沢一郎代表が「こんなものはいらない。ともかく選挙で勝つことに集中しろ。政権をとったら官僚を使えばいいんだ」と批判的で、それでも松本剛明政調会長(当時)などがとりなしてくれて、細々と勉強会などを開催するなど活動を続けていましたが、2009年に政権をとると、党務を統括する小沢幹事長が「もういらないだろ。政権交代をしたんだから、あとは役人を使え」といって休止になり、それっきりです。学者とか有識者を集めて政策を作る金があったら一枚でも多くポスターを貼らなきゃだめだよという発想が主流になり、もう1回シンクタンクをつくろうという話が出てこない。自民党のほうも続かなかった。自民党のカルチャーにもあわないようなんですね。

政府との会合であいさつする民主党の小沢一郎幹事長(手前右端)。左から2人目は鳩山由紀夫首相=2009年12月16日、首相官邸
党の政調スタッフはよく頑張っています。でも日々の運営や議員の発注をこなすのに精いっぱいで、突っ込んだ分析とか提言のための政策的なスタッフは不十分です。だから、新味のある政策や提言が極めて出てきにくい構造なんです。
野党合同ヒアリングをやって、「これは行政監視です」っていうのもよいですけれど。役人に宿題を投げて、徹夜して翌日もってくると、「ほらやっぱりおかしいじゃないか」といって、役人をガンガンたたいている。自分の手足を使って、その政策や行政の問題をあぶりだす機能は、同じ野党でも民主党系は、共産党などにはるかに劣るのではないでしょうか。
自分たちのスタッフで独自の情報を集めて、官僚や、そのトップにいる総理大臣からヒアリングをして勧告する。これを行政監視というんですけど、日本でやったのは国会事故調(東京電力福島原子力発電所事故調査委員会)ぐらいですね。あの時は、黒川清委員長のもとに腕利きのコンサルタントや弁護士が集まってくれて、総理大臣、経済産業大臣からも聞き取りをして報告書を出しました。でも、あの報告書や資料の置き場がなくて、国会図書館かなんかの一室に置いているらしい。お蔵入りにしているわけです。

「森友問題再検証チーム」のヒアリングで、財務省などの担当者ら(手前)に質問する野党議員ら(奥)=2020年3月19日、国会内