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もはや自明ではなくなった民主主義を守るには対抗政党が必要だ

神津里季生・山口二郎の往復書簡(12)ルールが無力な時代の最後のブレーキとして

山口二郎 法政大学法学部教授(政治学)

拡大新党の理念や政策について話す立憲民主党の枝野幸男代表=2020年9月26日、さいたま市大宮区

往復書簡・コロナ危機と政治 神津里季生・山口二郎

 神津さんの今回の書簡「ポストコロナの新しいモード『働く者ファースト』の社会に向かって」を拝見して、野党結集のために神津さんが払われた努力の大きさと強い覚悟を改めて感じました。

 政治の動きは目標地点まで最短距離を疾走するというわけにいきません。やはり、今は過渡期です。いささか陳腐になりましたが、丸山眞男が言ったとおり、民主主義とは民主化に向けた永久運動です。よりよい政党を作ることも、またしかりです。

 アメリカでは、大統領選挙の最中にホワイトハウスで新型コロナウイルスのクラスターが発生しました。これは最大級の不祥事です。日本では、発足早々の菅義偉政権が学者コミュニティーを相手に喧嘩を売ってきました。権力は科学を軽蔑し、市民的自由を基調とする民主主義はもはや自明のものではなくなりつつあります。この点は私の専門なので、もう少し掘り下げたいと思います。

本来の民主主義が変調をきたしている

 民主主義によって政治を運営するための制度は、アメリカ合衆国憲法制定から2世紀以上が過ぎ、もはや到達点に達しており、これ以上改良の余地はありません。かなり古い制度のうえに近年の情報技術やソーシャルメディアが乗り、本来の民主主義が変調をきたしているというのが現状です。

 なかでも最も深刻なのは、行政府の最高指導者に権力が集中し、権力の私物化や濫用(らんよう)が起こる一方、古典的な自由が権力によって侵害されるという問題です。

 権力の濫用を防ぐために、近代国家の憲法には権力分立の原理が明記してあります。しかし、司法の独立や違憲審査制、国会の調査権などの制度だけでは権力の横暴を防げません。

 ルールとは、ルールを守ろうとする人間を前提としています。人間にルールを守らせるのは、常識や品性という明文化しにくい縛りでした。今のように、罰則を伴わないルールは無視して平気という権力者が出てくれば、ルールは無力になります。そのことはトランプ大統領や安倍晋三前首相を見れば明らかでしょう。

 したがって、法の支配や人権を守るためには、権力をめぐる政治勢力間の均衡と緊張関係が不可欠になります。ここから、私の議論は神津さんが今回の書簡で強調しておられた政治的対抗勢力の必要性につながります。


筆者

山口二郎

山口二郎(やまぐち・じろう) 法政大学法学部教授(政治学)

1958年生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学法学部教授を経て、法政大学法学部教授(政治学)。主な著書に「大蔵官僚支配の終焉」、「政治改革」、「ブレア時代のイギリス」、「政権交代とは何だったのか」、「若者のための政治マニュアル」など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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