山口二郎(やまぐち・じろう) 法政大学法学部教授(政治学)
1958年生まれ。東京大学法学部卒。北海道大学法学部教授を経て、法政大学法学部教授(政治学)。主な著書に「大蔵官僚支配の終焉」、「政治改革」、「ブレア時代のイギリス」、「政権交代とは何だったのか」、「若者のための政治マニュアル」など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
神津里季生・山口二郎の往復書簡(12)ルールが無力な時代の最後のブレーキとして
今回、6人の立派な学者が日本学術会議会員から除外されたことは、政治権力がまた一つ「ブレーキ」を壊しにかかったことの現れだと私は感じています。日銀、NHK、内閣法制局は完全に政治の統制下にあります。学術会議などという貧乏で影響力のない機関から反政府的学者を追い出すことなど造作もないと、前政権、現政権は思っていたのでしょう。
しかし、憲法で保障された学問の自由を侵害するという批判は、予想外に社会に広がりました。これは、私にとっては嬉しい驚きです。言うまでもなく、法律が学者の団体に独立を保障しているのは、学者が権力に対して自由にものを言えるようにするためです。
学者が政府の政策を批判するのが鬱陶しかったのは想像できます。それにしても、任命拒絶の理由に、憲法上の国民主権とか公務員の選定、罷免の権利を持ち出したことは、当代の権力者が持つ「民主主義観」の貧弱の現れだと驚きました。
首相や官房長官は、国民が選んだ多数党の首領たる首相が任命権を行使することこそ、民意の貫徹だと言いたいのでしょう。その場合の民主主義は単なる多数決、多数支配です。多数者が間違うことがあるからこそ、少数者が異論を唱える自由を確保することが民主主義の安全にとって不可欠です。それゆえ、菅政権の学術会議への介入は、多数者の自殺行為なのです。
危機感を持った学者はそうした批判を繰り返していますが、現状だと結局は馬耳東風に終わるでしょう。民主主義を守る最後のブレーキは、今の首相や与党に、「自分たちが常に民意を僭称(せんしょう)できないかもしれない」という恐怖心を与えることです。そのためには、
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