しかし、日本こそ転換点を乗り切る知恵が必要だ
2020年10月14日
10月3日、ドイツ再統一から30年が経った。今日、ドイツを取り巻く環境は思いもしない変化を遂げつつある。新たな条件下でいかに国の進路を定めるか。ドイツにとっては厳しい挑戦だ。
この30年を便宜上、3期に分けたい。1990年から2005年(第一期)、2005年から2010年(第二期)、そして、2010年から2020年(第三期)だ。それぞれ「低迷」、「復活」、「翻弄」の時期に当たる。
1990年、旧東独を吸収しドイツ再統一がなった。ドイツ国民は高揚感に酔いしれたが、やがて重い現実が突き付けられていることを知る。ほとんど瓦解したに等しい旧東独経済の立て直しは、さしものドイツをもってしても重圧以外の何物でもない。それからというもの、長く厳しい道のりが続いていった。今も、東西間に厳然と残る見えない壁は、ドイツが背負う重い軛(くびき)だ。その重圧があり、ドイツは2000年代前半、「欧州の病人」と揶揄される。「低迷」の第一期、ドイツは欧州の足を引っ張るお荷物でしかなかった。
その「お荷物ドイツ」が、逆に、欧州経済を引っ張る主役の座に躍り出るのが2005年ごろからだ。背景に「一人当たり労働コストの劇的低下」と「ユーロの発足」があった。
「一人当たり労働コスト」は、その国の競争力を決める。この数値が、2000年代半ば、他の欧州諸国で軒並み上昇を続ける中、ドイツのみ横ばいで推移した。裏にシューレーダー政権の労働市場改革がある。ドイツと欧州諸国間で競争力の差が広がっていった。これに「ユーロ」による有利な為替レートが加わる。ユーロの為替レートは、加盟国の平均値だ。強いマルクのドイツはユーロの下、マルク切り下げに等しい効果を享受した。
かくて、この二つの条件が相まってドイツの輸出攻勢が始まる。新たにEU加盟国となった東欧諸国はドイツ経済の独壇場となり、やがてその勢いは中国市場にも及んでいった。
それまで、ドイツにとりアジア経済とは日本だった。それが、この頃を境に、目が中国に向き始める。その変化はすさまじかった。ドイツ企業が雪崩を打ったように日本から中国市場に鞍替えしていく。ジャパン・パッシングだ。現在、フォルクスワーゲン販売台数の4割は中国向けだが、転換期はこのころにある。
ちょうど、これと軌を一にしてメルケル政権が発足した(2005年)。メルケル首相は「復活」し「存在感を増したドイツ」を象徴するリーダーだった。
その強いドイツの流れは現在に至るも続く。しかし、2010年ごろから明らかに異なる潮流が見えてきた
「翻弄」の第三期を象徴するのが3つの事件、欧州債務危機(2010年~)、難民危機(2015年)、及び、トランプ政権の誕生(2016年)だ。それぞれ、冷戦後のドイツ台頭の条件である経済、政治、対外関係の安定を大きく揺さぶる。
「欧州債務危機」はユーロ、ひいてはEU統合の根幹を揺さぶった。ドラギ欧州中銀総裁の「やれることは何でもやる」発言を経て、何とか危機は脱したものの、火種は今もくすぶる。もし、次の危機が到来するならそれはイタリアだろうと、ささやかれる。コロナ禍で各国が急速に債務を増加させる今の状況は危険だ。去る7月、合意をみた7500億ユーロ復興基金は、その多くがイタリア等南欧に回される予定だ。EUとしては、北欧の財政規律派を抑えてでも南欧を支援し、EU統合のタガを締め直す必要があった。
欧州債務危機の後遺症は、債務国に課した緊縮財政だ。それにより、危機を脱したことは事実だが、厳しい緊縮政策は国民を政治的に過激化させた。それが「難民危機」と相まって今の欧州におけるポピュリズムを生んでいく。冷戦終結で自由民主主義は高らかに勝利を宣言した。よもや、右傾化の嵐が襲おうと誰が考えただろう。確かにそれは2015年、シリア等から怒涛のように押し寄せた100万を超える難民が直接の引き金だった。しかし、背後に、この30年、欧州の人々の心に溜まった「不安」がある。その不安は、グローバル化による格差拡大や緊縮財政が原因だ。
ポピュリズムの嵐は全世界に及び、2016年、「トランプ大統領の誕生」で頂点を迎える。トランプ大統領の登場は、欧州の対外関係を大きく変えた。欧州の安全保障の基盤は大西洋同盟にある。しかし、大きく揺らぐ大西洋同盟を前に、もはや、欧州が米国による保障を100%信じることはない。
第三期、ドイツを含むEU全体が「翻弄」される中、ロシアと中国がその混乱を見透かしたかのように揺さぶりをかける。
ロシアはそれ以前、グルジア(2008年)に侵攻していたが、2010年以降もウクライナ(2014年)、クリミア(同年)と既存秩序への挑戦を繰り返し、さらに、
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