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ポストソヴィエト空間で何が起きているのか

権威主義的体制のもとでつづく政情不安

塩原俊彦 高知大学准教授

 ソ連崩壊後の「ポストソヴィエト」の空間で、このところ、相次いで不穏な動きが広がっている。まず、2020年7月、ハバロフスク地方知事セルゲイ・フルガル知事逮捕後、住民のクレムリンへの抗議行動が広がった。ウラジーミル・プーチン大統領は、フルガルと同じ自民党のミハイル・デグチャレフを知事代行に任命して鎮静化をはかった。だが、抗議活動は3カ月間ずっとつづいている。

 8月9日に実施されたベラルーシ大統領選の結果に抗議して、今度は反アレクサンドル・ルカシェンコ運動に火がつく(ベラルーシについては、拙稿「日本をベラルーシにしてはならない:権力にとりつかれたトップが、いかに困った事態を招くか」「ベラルーシの政情不安:プーチンの介入はあるか:「欧州唯一の独裁者」に政権交代の可能性」を参照)。プーチンはルカシェンコを支持しているが、抗議活動はいまでも継続中だ。ベラルーシのデモ参加者のなかには、6000キロメートル以上離れたハバロフスクのデモを支持する看板をもつ人もいたというから、二つの抗議運動は無関係というわけではない。

 9月27日には、アゼルバイジャン領内にあるナゴルノ・カラバフ地域で戦闘がはじまった(詳しくは拙稿「ナゴルノ・カラバフ紛争の背後にトルコ」を参照)。10月9日からはじまった長時間にわたる協議の結果、ロシアのセルゲイ・ラヴロフ外相の仲介でアルメニアとアゼルバイジャンの外相の合意として、一時的な人道目的の停戦が10日12時(現地時間)から実施されることが決まったが、それは半日もたたないうちにご破算になってしまった。トルコの支援を受けて優勢なアゼルバイジャンは簡単にこぶしを下すことが難しい情勢にある。この武力衝突はロシアの同地域への影響力の低下と無関係ではないようにみえる。

キルギスの混迷

拡大来日し首脳会談に臨んだキルギスのジェエンベコフ大統領(右)=2019年10月23日、東京都港区の迎賓館

 さらに、10月4日に実施された議会選の結果をめぐってキルギスで混乱が起きた。ロシア語雑誌『エクスペルト』(2020年No. 42)によると、中央選管が認めた16政党のうち、議員獲得のための最低得票率(7%)を突破できたのは4政党にすぎず、そのうち「キルギス」党を除いて他の3党がすべて南部の氏族出身であったことから、北部民族が反旗を翻したのだ。国会議事堂に押し入り、略奪をしたり、一部が焼失したりしたほか、他の行政施設を占拠されてしまう。

 南部のオシュ州を地盤とするソオロンバイ・ジェエンベコフ大統領は事態悪化の前に大統領府を去り、一時行方をくらませた。5日、群衆は拘置施設にいたアルマズベク・アタムバエフ前大統領やサパル・イサコフ元首相らを釈放した(9日、アタムバエフは再び逮捕)。6日になると、一部の国会議員により、2017年に有罪判決を受けていたサディル・ジャパロフ元副首相を首相とする動きがあり、8日になって姿を現したジェエンベコフ大統領はジャパロフと会談、9日に国内に非常事態を導入する。10日になって、議員120人中53人の代理人がジャパロフに投票、10人が委任状を提出して、ジャパロフの首相就任が承認されたという。大統領は当初、議会の承認を拒否したが、14日に議会が再びジャパロフを再び選ぶと、ジャパロフの首相就任を認めた。

 2023年に正式に任期が満了するジェエベンコフ大統領は、10月15日に辞任した。キルギス憲法によると、大統領の辞任は議会で受理され、立法議会議長は移行期間中の職務を行うべきとされている。10月16日には国会が開かれる予定だが、混迷が予想されている。

 選挙で勝利したのは、得票率24.5%だった、ジェエンベコフが裏で支援するビリムディク(統一)と、同23.88%のメケニム・キルギスタン(我が祖国キルギスタン)だ。後者は、元税関職員で密輸に関係しているとされるライムベク・マトライモフとのパイプをもつ。

 ジャパロフは政治混乱の際、役人を誘拐した罪に服していた人物であり、「騒々しい民族主義者」(a rabble-rousing nationalist)と言われている。このため、中央アジアへの権益拡大をねらう中国は、ジャパロフが中国の所有する金鉱山を標的にしてくることを警戒している。他方、抗議行動で権威主義的政権が簡単に潰れてしまうと、ベラルーシへの連鎖といった事態も想定されるため、ロシアはキルギスでの安易な政権交代は望まないかもしれない。集団安全保障条約機構(CSTO)の枠組みのもとで、ロシア空軍がカント基地に駐留しているキルギスはロシアにとって重要な地域でもあり、ロシア政府は慎重な出方をしている。

 厄介なのは、キルギスは国民国家というよりも、氏族に分断された南北対立国家のようなところがある点だ。加えて、中国からの密輸で利益をあげる「マフィア」も力をもつことから、「法の支配」が安定しにくい。だからこそ、権威主義的な国家体制が求められていると、プーチンは感じているに違いない。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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