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コロナ禍でも続く成長トレンド 中国の経済体制の今さらきけない現実

米国も神経質になるコロナ危機対応などでの優位性の原点

酒井吉廣 中部大学経営情報学部教授

マルクス理論は死んでも代わるものがでる

 日本や米国などの西側先進国では、ソ連の崩壊によってマルクス経済学は死んだように扱われている印象を受ける。これに対し、中国政府で働く学者や官僚、中国の大学の研究者には、今もマルクス理論を社会思想や経済学と結びつけて研究する人が少なくない。

 先月、スタンフォード大学のZOOM会議に出席したところ、ソ連が失敗し、ベネズエラでも駄目だったのに、なぜ米国の若者は社会主義を好きなのか、という話題が出た。その時の答えを一言で表現すれば、「夢があるから」ということだった。

 北欧型やフランス型の社会主義もあり得るわけだが、呼び名や中身が多少違っても、実現が可能な理想の形だと考える若者が多いのかもしれない。

 米国では、共産主義を宗教の一つだと考える学者も出てきている。確かに、今回の大統領選挙におけるバイデン候補の健闘は、民主社会主義者を標榜するサンダース上院議員たちを抜きにしては考えられないが、その熱狂ぶりはまさしく一種の宗教のような感じがする。

 つまり、イデオロギーとしての共産主義が残っている以上、経済学としてのマルクス理論が死んでも、それに代わるものが出てくるのは必然で、今も昔もその信奉者は少なくないのだ。

資本主義とは異なる道を目指してきた中国

拡大pskamn/shutterstock.com

 筆者はマルクス理論の信奉者ではない。しかし中国共産党の中や中国の大学でこれを研究する人達の経済の現状に対する分析と、熱心な説明を聞くと、資本主義とは異なる道を目指してきた国が、今後もこのやり方で成長を続けることは決して不自然ではないと感じる。

 このところの米国の対中政策の転換は、「関与戦略」(Engagement Strategy)を続ければ、いずれは中国も自由主義や資本主義、民主主義になるとの期待が外れたことによる。

 しかし、1972年のニクソン米大統領の訪中以降、米中の往来が増え、中国研究者も増えたにもかかわらず、米国が見込み違いをした原因は、ニクソン大統領が形容した「フランケンシュタイン」をそのまま放置したこと、そしてその中国が米国を騙(だま)したことだと言われても、あまりに短絡的な気がする。

 むしろ、資本主義の良さや強みを取り込みながら、ソ連のマルクス理論による共産主義の失敗を修正し、中国なりの経済理論を作り上げてきたためだと理解しないと、今後の経済外交などにおいて失敗をするのではないかと、個人的には懸念する。

 米国(またはその他の資本主義国)の失敗は、こうした動きを、中国が資本主義経済に移行しようとしていると誤解したことだろう。

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筆者

酒井吉廣

酒井吉廣(さかい・よしひろ) 中部大学経営情報学部教授

1985年日本銀行入行。金融市場調節、大手行の海外拠点考査を担当の後、信用機構室調査役。2000年より米国野村証券シニア・エグゼクティブ・アドバイザー、日本政策投資銀行シニアエコノミスト。この間、2000年より米国AEI研究員、2002年よりCSIS非常勤研究員、2012年より青山学院大学院経済研究科講師、中国清華大学高級研究員。日米中の企業の顧問等も務める。ニューヨーク大学MBA、ボストン大学犯罪学修士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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