大野博人(おおの・ひろひと) 元新聞記者
朝日新聞でパリ、ロンドンの特派員、論説主幹、編集委員などを務め、コラム「日曜に想う」を担当。2020年春に退社。長野県に移住し家事をもっぱらとする生活。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
政治家が抱く「カウンター・デモクラシー」への警戒感
だとすれば、政治権力者が警戒感をむき出しにするのは、学問の自由というよりもむしろカウンター・デモクラシーに対してだと言えるかもしれない。
カウンター・デモクラシーとは、選挙以外の手段で社会の声を政治に伝える仕組みを表す。仏歴史家、ピエール・ロザンヴァロン氏が提唱して知られるようになった。具体的には、政治に対して発言する市民組織、専門性の高い人たちの団体、新旧のメディア、司法など多岐にわたる仕組みや運動を指し、人々が街頭で繰り広げるデモや集会などもそれに当たる。
日本学術会議のような学者や研究者が政策に関連して発言する組織もその一つと見ることができる。学者や研究者の中から送り出されるメンバーが、政府に対して独立して意見を言う。政権の政策を支持し権威づけるのが目的ではない。
そんな機関に「税金が使われているから」などと言って政府が介入する。選挙で選ばれた政府は国民の意思を体現しているのだから、それに異を唱えかねない人々や組織は退けられて当然といわんばかり。
人種差別問題に取り組もうとしない政府への異議申し立ての運動を、「法と秩序」を脅かしているとして否定する米国のトランプ大統領の振る舞いとも似たところがある。
選挙以外で政治に異議を突きつけることを、不規則で余計な動きという発想だ。
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