星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト
1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
個別政策は打ち出すが、理念が求められる「総論」は見えずに過った判断が横行
菅義偉政権が発足して10月16日で1カ月。この間、この政権の内実を示す象徴的な出来事が続いた。
役所ではんこを使用する機会を極力減らして、行政改革を進めようという動きが急速に進み、世論調査では好評だった。その一方で、日本学術会議の会員選出をめぐり、会議側が推薦した105人中6人の任命を拒否し、同会議や各種学会などから「学問の自由への介入」と強い反発を受けている。
脱はんこなど「各論」の個別政策は次々と打ち出すものの、学問の自由といった理念が求められる「総論」は見えず、過った判断が横行する。10月26日からの臨時国会、年明けの通常国会、そして来年秋までには必ずある衆院の解散・総選挙を乗り切れるのか。「各論政権」の前途は多難だ。
河野太郎行革担当相が旗を振る脱はんこは、分かりやすさもあって好評だ。しかし、大きな経済効果があるわけではなく、話題は一過性だろう。役所のペーパーレス化は、これまで遅れていたことがようやく動き出したにすぎない。携帯電話料金の引き下げも菅政権の目玉だが、公共の電波を使っているとはいえ、基本的に民間企業が決める問題である。政府が民間企業の個別料金に対して強引に口を出せば、市場にゆがみをもたらす。
デジタル化の促進は政権の目玉だ。振り返れば、新型コロナウイルスの感染拡大対策で給付金を配ろうとしたが、申し込みを受けても預貯金口座への振り込みに手間取った。マイナンバーで簡単に手続きが済むという触れ込みだったが、自治体ではネットの申し込みをプリントアウトして住民基本台帳と照合するという、ちぐはぐな光景も見られた。気がつけば「デジタル後進国」だったのである。
挽回は容易ではない。府省庁の縦割り、国と自治体の連携不足、個人情報の壁が重くのしかかる。菅首相は「既得権益打破」を掲げるが、一朝一夕に解決できる問題ではない。それでも、政権発足当初の「改革」への姿勢は好評価を得た。
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