星浩(ほし・ひろし) 政治ジャーナリスト
1955年福島県生まれ。79年、東京大学卒、朝日新聞入社。85年から政治部。首相官邸、外務省、自民党などを担当。ワシントン特派員、政治部デスク、オピニオン編集長などを経て特別編集委員。 2004-06年、東京大学大学院特任教授。16年に朝日新聞を退社、TBS系「NEWS23」キャスターを務める。主な著書に『自民党と戦後』『テレビ政治』『官房長官 側近の政治学』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
個別政策は打ち出すが、理念が求められる「総論」は見えずに過った判断が横行
安倍晋三政権は、経済政策として「アベノミクス」の大風呂敷を掲げたが、人々の生活が大幅に改善されたわけではない。7年8カ月の長期政権のおごりも目立ち始めた。秋田から上京した「苦労人」の菅氏の登場が、国民には一種の「ペースチェンジ」と映ったことも、菅政権が発足直後に高支持率を記録した原因だろう。
とはいえ、「各論」の改革の成果が目に見えるようになるのは、かなり先になる。加えて、そうした改革で日々の暮らし向きがすぐに良くなるわけではない。菅政権の発足に拍手を送った多くの国民も、コロナ感染への不安と景気の悪化を実感する日々を送っているだろう。
コロナ危機の中で安倍長期政権を引き継いだ菅首相の最大の課題は、コロナ感染を抑え込み、経済を再生させることに尽きる。それは菅氏本人が自覚しているはずだ。そこに突然、噴き出したのが日本学術会議をめぐる問題である。
構図は単純だ。210人の会員の半数105人が改選期を迎えたため、学術会議側は105人の推薦者名簿を首相官邸に提出した。学術会議法で、「会議の推薦に基づいて内閣総理大臣が任命する」と定められているためだ。
これに対して、官邸の事務方トップである杉田和博官房副長官が名簿を精査。芦名定道・京大教授、宇野重規・東大教授、岡田正則・早稲田大教授、小沢隆一・慈恵医大教授、加藤陽子・東大教授、松宮孝明・立命館大教授の6人の任命を拒否する方針を決め、菅首相が了承した。
10月16日には学術会議の梶田隆章会長が菅首相と会談し、6人の任命拒否を撤回するよう求めたが、菅首相は明確な回答を避けたという。
任命拒否の論点は大きく分けて二つある。
まず、任命拒否の手続きだ。学術会議法で「推薦に基づき首相が任命」と定められていることに関連し、政府はこれまで「任命は形式的」(1983年の中曽根康弘首相答弁)という姿勢を取ってきた。学問の自由に介入しないという配慮から、推薦者を事実上、そのまま任命してきたわけだ。
これに対して、2012年に発足した第2次安倍晋三政権は、推薦者の一部の任命に難色を示したうえ、18年には学術会議を所掌する内閣府と内閣法制局の協議で、推薦者を全員任命しないことも可能という法解釈をまとめていたという。こうした法解釈の動きや狙いが不透明で、十分な説明がなされていない。
さらに大きな問題は、