適当に処理して一件落着とはいかない学術会議問題を打開する唯一の道は
2020年10月21日
ベトナム、インドネシアの二カ国を訪れた菅義偉首相の初外遊は時宜を得たもので、かなりの外交成果を挙げている。同伴した夫人もさわやか、謙虚で、好ましい印象を与えた。
米国が初めての訪問国でなかったこともよかった。たまたま米大統領選と重なり、さすがに訪米というわけにはいかなかったかもしれないが、これも首相のツキが味方したのかもしれない。(『菅首相への期待と不安~「ビスマルクのマント」をつかんだ強運と政治勘』参照)
内閣発足1カ月にあわせ、それとほぼ同時におこなわれたメディアの世論調査は、残念ながら相当に厳しい結果だった。外遊が終わった後であれば、多少違った結果になったかもしれないが……。
10月17、18両日に実施された朝日新聞の世論調査によると、内閣支持率は53%と、発足直後の9月調査の65%から10ポイント以上下がっている。他のメディアの調査も支持率が低落傾向にある点では同様である。
朝日の調査では、日本学術会議をめぐる問題で、菅首相のこれまでの説明について、「十分ではない」と答えている人が63%に達しているから、これが支持率低落の主因といっていいだろう。
この問題は、適当に処理をして一件落着というわけにはいけないから、これまでの首相の対応のままでは、支持率の下落に歯止めをかけることはできない。今回任命しなかった人を任命し、この問題に真正面から堂々と取り組むことが、事態を打開する唯一の道だと思う。
10月16日、菅首相と学術会議の梶田隆章会長との会談が実現した。
この席で梶田会長は、学術会議で決めた首相への二つの要望を文書で手渡した。要望は、①推薦した会員候補6人が任命されない理由の説明、②その6人の速やかな任命――である。
その結果、現在“ボール”は首相の側に投げられ、対応義務、回答義務が首相側に生じている。考えてみると、これは首相が今までの対応を軌道修正する貴重な機会を得たということになる。
菅首相は99人が任命された段階で、任命されなかった6人が入った名簿を「見ていない」と明言している。それならば、6人を追加任命すれば、「拒否の理由」を示す必要性は薄くなる。
10月9日の内閣記者会とのインタビューで、菅首相は「会長が会いたいのであれば会う用意がある」と発言した。これを受けて梶田会長は、就任の挨拶を兼ねて要望書を提出するために面会を申し出たという。
前述した二つの要望については要望書に書いてあるので、会談の場で「本日はそこまで踏み込んだお願いをしていない」(梶田会長)というのも理解できる。それに学者が一人で首相官邸に出向き、首相と会うのはかなりの緊張を伴うであろう。
菅首相は会談後、「学術会議が国の予算を投じた機関として、国民に理解される存在であるべきだ」との考えを伝えたと記者団に説明した。しかし、要望書への対応については言及せず、記者団に質問されても、コメントはしなかった。
当然のことだが、公的機関が出した正式な要望書を握りつぶすことはできない。菅首相はこれから、二つの要望に対する正式な回答を強く迫られることになろう。それゆえ、この問題がいつの間にか消えてなくなるということはあり得ない。
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