「信教の自由」「表現の自由」という共和国の理念と現実との隔たりをどう埋めるのか
2020年10月23日
イスラム教過激派に感化されたとみられるチェチェンからの難民によるフランス人教員の殺害テロ事件は、フランス共和国の国是「自由、平等、博愛(連帯)」はもとより、「非宗教(信教の自由)」や「表現の自由」といったフランス憲法に明記される「共和国としての理念」と現実との隔たりを、まざまざと見せつけた。
この隔たりをどうすれば縮められるのか。フランス人は今、必死でこの永遠の命題に取り組んでいるようにみえる。
惨殺されたのは、パリ郊外コンフラン・サントノリヌの公立中学の哲学・歴史の教員、サミュエル・パティさん(47)。マクロン大統領は10月21日夕、パティさんの国民葬を、「啓蒙と教育」の象徴であるパリ・ソルボンヌ大学の中庭で主宰した。ここには、細菌学の祖ルイ・パスツール、そして文豪、というより共和主義の具現者であり政治家でもあったヴィクトル・ユゴーの銅像が立っている。
パティさんにはフランスの最高勲章であるレジョン・ドヌールのシュバリエ章が授与され、大統領が遺族の承諾のもと、長文の追悼文を読み上げた。パティさんが「教育者」として、生徒たちに「(仏共和国の)市民になり、市民の義務を果たし、自由を実施することを教えた」と述べ、教育者として、そしてフランス共和国の良き市民として、お手本だったことを強調した。
パティさんの首が切断された遺体が勤務先の公立中学近くで発見されたのは10月16日の午後。この残忍で野蛮な事件は即、国中に伝わった。
フランスではちょうどこの日から、パリ(パリ郊外を含む)など9の大都市で「夜間外出禁止令(午後9時から午前6時まで)」が出された。新型コロナウイルスの感染の再拡大で、1日あたりの感染者が連日1万人を超え、2万人以上に達した日もあったからだ。
16日の午後9時前には、通常は週末の人出で賑わうシャンゼリゼ大通りをはじめ、街中から人影が消え、まるで国中が惨殺されたパティさんの喪に服しているかのようだった。
パティさん殺害の容疑者は、急報で駆け付けた警官隊に武器のようなものをかざして抵抗姿勢を示したため、その場で射殺された。近くには血塗られた刃渡り35センチの大型ナイフが落ちていた。
身元を確認した結果、モスクワ生まれのチェチェン系難民で18歳と判明した。同夜のうちに同居の両親、祖父、弟(17)、ナイフやピストルなどを提供した仲間や、SNSでの拡散で犯行に影響を与えたとみられるイスラム教過激派の活動家など11人に加え、容疑者にパティさんを特定した報酬として金を受け取った複数の生徒が拘束された。
パティさんは10月5日、「倫理、市民教育」の授業で、フランスの風刺週刊紙「シャルリー・エブド」が過去に掲載した、ムハンマドが全裸になった姿を含む2枚の風刺画をスライドショーで生徒に見せた。「表現の自由」を討議するのが目的だった。
クラスにはアラブ系などイスラム教徒の生徒が多数いるので、事前に「イスラム教徒の生徒をはじめ、見たくない者は教室の外に出てもよろしい」と述べた。混乱がなかったので、翌6日にも違うクラスで同様の授業を行った。
「倫理、市民生活」の授業は、国歌「ラ・マルセイエーズ」を歌えなかったり、フランス共和国の国是「自由、平等、博愛」や「非宗教」に無関心だったりする移民の生徒が増えたため、フランス国民としての基本を学習するため、「歴史・地理」の授業の枠組みで長年、実施されている。
パティさんは毎年、同様の授業しており、
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