自由が制約される場合の裁判所の役割について考える【1】
2020年10月27日
フランスでは、一日の新型のコロナ新規感染者の数が3万人を超えるなど、感染者増が止まらない。そのなか、マクロン大統領は10月14日、10月16日から1日にかけての深夜零時から緊急事態宣言を発令するとともに、午後9時から午前6時までの外出禁止令を1カ月間発令すると宣言した。7月11日に緊急事態宣言が解除され、夏休みも楽しめたフランスでまた、新たな自由の制約が生じると大きく批判されている。
3万人という数字を聞くと、納得する日本人は少なくないかもしれないが、この数字については相対化することも必要である。フランスではPCR検査数を飛躍的に増加し、現在1週間あたり140万件程度の検査を行っている。フランスの人口が日本の人口の約半分程度であることを考えると、日本だと一週間あたり300万件弱の検査が行われているに等しい。
検査は無料で、パリでは朝から検査を行っている場所に長蛇の列ができていた。空港でもPCR検査が義務付けられていない、たとえば日本からの入国者など向けに、希望者だけであるが、無料のPCR検査が受けられるようになっていた。下の写真1、2は、シャルルドゴール空港で荷物を引き取った後に出てすぐの場所に設けられているPCRの検査のためのカウンターである。
一方で、重症者の数も死者の数は、夏までに比べて大幅に減少している。
パリの人々は皆マスクをつけていたが、それがなければ一見、街には活気が戻り、元の生活に戻ったように見えてはいた。だがよく見ると、観光客はおらず、バーは閉鎖が命じられ、光が足りない夜のパリの光景に、私は何とも言えない寂しい気分にとらえられた。
そんななか、マクロン大統領が14日に何かを発表するらしいということで、前日の13日から人々はそわそわしていた。16日(金曜)の夜からフランス全土で秋休み(万聖節の休み)に入ることから、その前に何らかの厳しい発表が政府からなされるのではないかと予想されていたからだ。タクシーの女性運転手は「業界内では外出禁止令が発令されるとうわさされていて、生活が不安で仕方がない」と話していた。
ところで、夜間の外出禁止令は、フランス語ではcouvre-feuという。文字通り訳すと「火を覆うこと」である。イングランドを征服したウィリアム征服王が11世紀に命じたものだというが、火事を避けるために竈(かまど)や暖炉の火を、一定の時間に消すことを意味する。後年、一定の脅威(火事や暴力)の蔓延を抑えるための自由の制約という意味が残り、夜間の外出禁止命令を指すようになったという。
couvre-feuは第二次世界大戦でフランスを占領していたドイツ軍が多用し、その後はアルジェリア戦争の混乱期にフランスでも使われるようになった。戦争のイメージがついて回るが、マクロン大統領が当初よりコロナとの闘いは「戦争だ」と言ってきたことと、平仄が合っているようにも見える。
マクロン大統領が外出禁止令の発令を予告した10月14日は、たまたまフランスの行政裁判所の最高裁でもあり、また政府の諮問機関であるコンセイユデタ(国務院、1799年にナポレオンにより創設)において、緊急事態をテーマにした来年6月まで続く全4回の連続セミナーの第一回目が開催されていた。
コンセイユデタはフランスの最高の頭脳を集めた最高峰のエリート機関である。政府提出法案は国会に提出される前に必ずコンセイユデタの意見を得なければならず、コンセイユデタは政府提出法案に相当切り込んで、適法性・憲法適合性に関して意見を述べる。多くの場合政府提出法案はこの時点で修正が行われる。
また、行政最高裁として「人権の砦」としての役割を担い、数多くの行政行為(その中には政府の出す政令等も含まれる)について無効判決を出し、国家権力は濫用されるという根本的視点のもと、救済を行っている。行政機関の一翼を担いながら、行政権に対して冷徹な視点を持ち続けることは、残念ながら、我が国からは想像しにくい。
そのようなコンセイユデタが企画したセミナー一回目のテーマは「緊急事態:何を行うために?」であった。
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