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コロナが変える世界経済の今後の方向

花田吉隆 元防衛大学校教授

店舗が一斉休業していたパリのシャンゼリゼ通り=2020年3月18日、疋田多揚撮影

 フィナンシャルタイムズ紙コメンテーター、マーティン・サンブー氏によるIMF報告に関する論考は興味深い(10月11日付 ”Dawn breaks on a new age of economic thinking”, 日経に邦訳)。ここでいうIMFの報告は、「アナリティカル・チャプター」のことで、これが、毎年IMF・世銀年次総会で公表される「世界経済見通し」の下敷きになる。今年は、パンデミック対策や気候変動対策の経済的影響等を分析している。

 二点ある。

ロックダウンの経済的影響

 第一点は、ロックダウンの経済的影響だ。コロナ対策を考えればロックダウンが最も有効だが、それは経済的ダメージを生む。いかに両者を両立させるか、日本だけでなく世界中がこの問題に苦慮する。

 ロックダウンによる深刻な影響に懲りて経済を優先し規制を緩めると、途端にコロナウイルスが息を吹き返してくる。欧州では今、第一波を上回る勢いで第二波が猛威を振るっている。各国は改めて規制強化に躍起だ。当然、経済に与える深刻な影響は避けられず、第一波以上の落ち込みも必至という。日本では半年前、当初の中国由来ウイルスに引き続き国内に流入した欧州由来ウイルスが深刻な感染蔓延を引き起こした。とすれば、今欧州を襲う第二波が日本に入り込まないよう水際での防止が何より肝要だが、折悪しく、政府は経済回復に向け入国制限緩和に動き出した。今後の展開が要注意だ。

 これに関し、IMFが指摘する「感染へのリスクがある限り、ロックダウン解除は経済を部分的にしか回復させない」というくだりは納得がいく。いくら政府がロックダウンを解除しても、人々が感染を恐れ行動を自粛すれば、経済の回復は限られたものでしかない。だから「経済回復を目指し、早急にロックダウンを解除することには慎重であるべき」であり、やみくもに解除しても、感染がぶり返し経済がダメージを受けるのが関の山だ。

 IMFは、さらに「ロックダウンは早い段階で一気に封鎖する方が公衆衛生上の効果がはるかに大きい」という。この点はかつて西浦教授や本庶教授も指摘していたところだ。遅くなればなるほど長期にわたる緊急事態が必要だが、まだ感染が広く蔓延していない段階で早目の措置を講じれば比較的短期に効果を上げることができる。ところが、現実には日本の対応を見ても分かるとおり、なかなか、厳しい対応に踏み切れない。逡巡に逡巡を続けるうちに感染が一気に広がり始め、それを見てあわてて緊急事態宣言に踏み切るが、時すでに遅し、遅れた分だけ緊急事態も長期にわたって続けざるを得ず、結局、経済が致命的打撃を受ける。「もう、あんな緊急事態をやりたいなんて誰も思わないでしょう」というわけだ。確かにあんな大きなダメージはごめんだが、IMFがいうのは、それなら「時宜を逸せず、事態が深刻にならないうちに早目に手を打て、それも一気に厳し目の手を」ということだ。

 結局、最も効果的なのは「ストップ・アンド・ゴー」でないか。つまり、感染が勢いを増してきたら、すかさず厳し目の措置をとる、措置が早い分、短期で効果を上げるはずであり、頃合いを見計らって経済を元に戻す。また感染がぶり返してきたらこれを繰り返す、ということだ。事態が深刻になってもいないのに厳しい措置をとることは政治的に容易でない、との指摘はあろう。それでも、これが最も効果的というのであれば、今後の対応を考えるにあたり留意しておかねばなるまい。

「脱炭素化」と「成長」は両立しうる

 さて、以上はサンブー氏の論考の序章だ。本題は次の第二点にある。

 サンブー氏は、IMFの上記分析は「公衆衛生」と「経済」が、両立し難い二律背反の命題ではなく、早い段階でしっかりしたロックダウンを実施すれば、公衆衛生上の高い効果が期待できると共に、経済へのダメージも小さくて済むことを意味している、という。

 同じことは、IMFの気候変動の経済的影響を分析した部分にも見られる。

 脱炭素化は、余計な費用がかかり成長にマイナスだと考えるかもしれないが、「脱炭素化」と「成長」は二律背反でない。適切な脱炭素化政策を考えることで、

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