維新の訴えはなぜ拒まれたのか。敗因と政治的影響を考える
2020年11月02日
「大阪市廃止・特別区設置」の是非を問う大阪市の2度目の住民投票が11月1日に実施された。午後8時に投票が締め切られた後、午後9時から市内24か所で開票作業が始まったが、午後10時40分には報道各社が「反対多数が確実」と報じた。5年前同様、大阪市民は僅差ながら「大阪市廃止・特別区設置」を認めなかった。
同日11時すぎ、市内のホテルで記者会見に臨んだ松井一郎市長、吉村洋文知事は次のように語った。
松井市長「変化というものに対しては、みなさん不安を持ちます。その不安を解消できなかった自分の力不足です。残り2年半の任期はまっとうしますが、市長の任期をもって、僕の政治家としての任期も終了とします」
吉村知事「反対派の方の大阪市を残すべきだという思い、熱量が、僕らの熱量より強かった。僕たちが掲げてきた『大阪都構想』はやはり間違っていたんだろうというふうに思います」
大阪府・市の首長をとり、議会においても5年前の住民投票時以上に圧倒的多数の議員を擁している維新の訴えがなぜ市民に拒まれたのか。その敗因をさぐると同時に今後の政治的影響について考える。
大阪市会の政党別議員数は、維新40、公明18、自民19、共産4、旧民主・現立憲系2。維新・公明の「賛成陣営」が58人、自・共ほかの「反対陣営」が25人で、その数だけで考えれば、今回の住民投票では賛成派が大差で多数を制するものと思われた。実際、各報道機関が序盤(9月)に行なった世論調査では、どの調査でも「賛成に投票する」と答えた人が「反対に投票する」と答えた人を10ポイント以上、上回っていた。ところが、中盤から終盤にかけて、その差は徐々に詰まり、投票日の数日前には賛否が拮抗する情勢となっていた。
この数年の間、多数の大阪市民は、市長選でも市議選でも「都構想推進」の大看板を掲げている維新候補に一票を投じ、彼らを圧勝させている。にもかかわらず、住民投票ではなぜ2度にわたって「都構想」が否決されたのか。首をかしげる人もいるだろうが、選挙で示される多数意思と住民投票で示される多数意思に「ねじれ」が生じるのはよくあることなのだ。
例えば、「吉野川可動堰の建設」をめぐる徳島市や「原発誘致」をめぐる海山町(現紀北町)などでもそうした「ねじれ」が生じ、両自治体とも、首長や議員の多数をとっていた推進派が住民投票では大敗している。
自分に代わって事柄を決める人を選ぶ選挙と、自分自身が直接事柄を決める住民投票・国民投票は異質な制度であり、選挙では圧倒的な強さを誇る維新でさえ、主権者・市民から2度も否決を突き付けられる事態となった。
各社の出口調査では、7割ほどの人が「維新の行政運営を評価する」と答えながら、そのなかの6割強が「賛成に投票を」という維新の訴えに応えず反対票を投じている。普段の政治・行政全般への評価と「大阪市廃止・特別区の設置」に対する自身の判断を混同せず、分けて考え選択した大阪市民がこんなにもいたことに私は感動したが、まさにそれが賛成派敗北の主因であるといえる。
大阪でのこの結果を見て、国会内の明文改憲派の中には、「国会で圧倒的な数の議席を得ても、国民投票で多数を制することは難しく、安易に改憲の発議はできない」と考えた議員もいるだろう。
「都構想」を進めたら大阪が活性化する、景気がよくなるという確信を多くの人が持ち得なかった。不透明なことが多くて、「住民サービスが低下するのでは」という不安を払拭できないまま投票日を迎えた人も多かった。
賛成派の敗因については、そういったことが考えられるが、私が対面で話を聞いた数十人の市民の中から、前回は賛成票を投じたのに今回はそうしなかった人たちの生の声を紹介したい。
[鉄工所の経営者・60代(男)]
「『都構想』という試み・挑戦
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