「都構想のエッセンス」は間違っていないのに、5年前と同じ結果に終わったのは……
2020年11月02日
11月1日に住民投票に付された2回目の「大阪都構想」の住民投票(「大阪市を廃止し特別区を設置することについての投票」)は、賛成67万5829票(49.37%)、反対69万2996票(50.63%)と言う僅差で再度否決されました。この結果は大阪維新の会、大阪市政・府政に多大な影響を与えるのみならず、国政政党である日本維新の会、そして国政に与える影響も少なくありません。
かつて日本維新の会(と合併後の維新の党)に所属し、2015年の1回目の住民投票では「大阪都構想」の旗をもって大阪市内を練り歩いたものとして、「大阪都構想の住民投票はなぜ再度否決されたか」を分析したいと思います。
まずもって私は、日本維新の会に所属していたときのみならず、その後の県知事職の経験も踏まえて、維新の大阪都構想はさておき、「都構想のエッセンス」と思われる「府(県)と政令指定都市の権限について再整理が必要」という点については賛成です。
例えば、私が知事を務めた新潟県は人口220万6566人で、その36%、3人に1人に当たる79万3113人が政令指定都市の新潟市に住んでいます(2020年現在)。域内のGDPもほぼこれに比例し、新潟県の域内GDPの三分の一を新潟市が占めています。
新潟県全体の「成長戦略」や「都市計画」を描こうとした場合、どうしてもその中心を新潟市が担うことになります。また逆に、新潟市の成長戦略や都市計画は、新潟の「県都」としての特徴を最大限に生かすべく、県全体との連携を考える必要があります。実際、新幹線、高速道路といった交通網のみならず、ICT技術の発展により、極めて広範囲における広域連携が可能となっています。
ところが、政令指定都市の場合、様々な行政分野について県と同等の権限があり(本来広域行政を担う県の役割を政令指定都市が担っており)、県の中に県があるような状況で、県知事と政令指定都市の市長の仲が特に悪くなくても、制度上その連携は必ずしも容易とは言えない状況となっています。
1956年に運用が開始された政令指定都市制度はいまや、ほとんどの都道府県(地域)で中核となる大都市に人口・経済の集中が進むと同時に、交通やICT技術の発展により極めて広い地域がその大都市と社会的・経済的に結びつくという現在の社会・経済状況に、合致しないのです。
その意味で、府(県)と政令指定都市の権限を再整理し、広域行政を府(県)に一元化することで、より現代的で広域的・長期的な成長戦略・都市計画を立案・実行しようという「都構想のエッセンス」は、恐らく間違っていなかったと私は思います。
しかしその一方で、府(県)と政令指定都市の権限の再整理それ自体は、単に行政機構内の権限の分掌を変えるだけで、成長に直結するものではありません。府(県)が成長を遂げられるかどうかは、当然のことながら、外形である大阪都構想にではなく、中身である「成長戦略」や「都市計画」によって決まります。維新が、その肝心の「中身」を提示することなく、「外形」に過ぎない大阪都構想が成長に直結するかのように喧伝したことは、極めて大きな誤り、もしくはミスリードであったと私は思います。
さらに、成長戦略、都市計画のような将来の話ではなく、「日々の住民サービス」の観点から見たら、豊かで人口が集中する大都市の税収をそのまま大都市に使った方が使える金額は高くなります。また、これまで一つの大阪市でやっていた「日々の住民サービス」を四つの特別区に分割すれば、当然ながら行政コストは上がります。住民投票選挙の最終盤で報道され話題を呼んだ「大阪都構想が実現した場合、行政コストが218億円増加する」という毎日新聞の報道は、その前提や細かい数字に修正の余地はあるにせよ、基本的には誤報でも捏造(ねつぞう)でもなんでもなく、むしろ当然の「事実」であると思われます。
つまり、大阪都構想は「よりよい成長戦略・都市計画の立案・実行」のための行政機構の整備というエッセンスにおいては正しいけれど、それ自体が成長に直結するものではなく、場合によっては「日々の行政コスト」を上げて域内における行政サービスを低下させかねないものであり、本来、そのメリットとデメリット、実行した場合の影響や効率的な執行方法を様々に検討し、より良い制度設計を、時間をかけて模索すべき、極めて複雑で大きな問題なのです。
ところが、このきわめて複雑で大きな問題である大阪都構想の住民投票が、再度否決されたその理由は、出口調査の結果から見るかぎり、極めてシンプルです。
NHKの世論調査によれば、「前回、『賛成』に投票したと人38%、『反対』に投票した人37%、『投票していない』人が24%の中で、前回の住民投票で「賛成」したと答えた人のうち、およそ90%が今回も「賛成」、前回「反対」した人のうち、およそ90%が、今回も「反対」に投票した」とされており、有権者の賛否は前回とほとんど変わっていません。
「行政区ごと」の賛否でも、賛成・反対が変わったのは、前回賛成多数だったのが反対多数になった東成区のみで、後はすべて同じです(NHK NEWS WEB参照)。要するに今回の住民投票は、一言で言って「5年前と同じ」結果だったのです。
では、今回の住民投票に際し、大阪維新の会、日本維新の会は「都構想は大きくバージョンアップ」(大阪維新の会HP参照)したと喧伝し、法定協議会では維新・自民・公明の19人中16人の賛成を得、実際の選挙においては公明党の全面的な協力を得るなど、外部的状況としては2015年と大きく異なっていたにもかかわらず、2020年の大阪都構想の住民投票自体は何故、これ程シンプルに「5年前と同じ」結果になったのでしょうか。
私は、その理由は三つあると思います。
第一の理由は、身もふたもないのですが、そもそも大阪都構想自体も、これに対する維新の説明も、本質的に「5年前と同じ」だったことにあると思います(Sankei Biz参照)。
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