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2020年、日本学術会議事件が起きた

[210]日本学術会議総会、「報道特集」40周年、松元ヒロさん『ひとり立ち』……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

9月30日(水) 久しぶりにプールへ行って泳ぐ。泳ぐとやっぱり心身の調子がよくなる。でも錯覚もあるのかな。その証拠に、以前、病院に入院した週は、直前まで1週間に4回もプールに足を運んでいた。それなのに、ある日、発熱した。心身の調子なんか錯覚だったのかな。

 故・大盛伸二さんの写真展の告知を目的とした沖縄タイムス用の記事を書く。写真展のタイトルが「2020 Album“Yes”」。

 その後、「Journalism」誌用の原稿を書き始める。安倍首相の辞任劇をめぐる深層報道の完膚なきまでの欠落について。自宅では朝日新聞をとっているので読んでいるが、きのうのパブリックエディターという人物の記事がひどかった。「政権評価の声、感じ取れたか」。こういう「俗情との結託」を自分の役割だとか勘違いしている人がエディトリアルに関与すること自体が堕落でしょ、S政治部長さん。高橋純子編集委員のコラムとの対照ぶりに困惑する。

10月1日(木) きのうの続きで「Journalism」誌用の原稿を書く。あらためて辞任表明時の記者会見の模様をチェックしたが、まともな質問をしていたのは、神保哲生氏と西日本新聞の川口安子記者くらいだった。

 共産党の機関紙「赤旗」が一面トップで、日本学術会議の人事に菅首相が介入、とデカデカと報じている。学術会議会員の推薦者リストから数人だけが除外されていたという(のちに6人と判明)。これらの学者には政府の安保法制などに批判的だった人物も含まれており、任命除外は過去には例のない措置だという。何だか「文春砲」みたいだな。安倍前首相の「桜を見る会」の私物化疑惑を最初に報じたのも「赤旗」だった。

 この日本学術会議の首相による人事介入は大スクープであることは間違いない。ただ、今日は東京証券取引所のシステム故障で取り引きが終日停止という、これもまたニュースがあった上に、Go To トラベル・キャンペーンに今日から東京も「解禁」されて加わるという一種のお祭りイベントがあって、テレビは辟易するくらい大騒ぎしている。視聴者に、お得ですよ、今がチャンスですよ、と旅行に出かけることをまさに煽っているのだ。政府のコロナ対策と明らかに逆行することを政府自身が推奨し、それにメディアが乗っかっているのだ。

「はとバス」の都内を周遊するツアーで、景色を楽しむ人たち=2020年10月1日午前10時45分、東京都中央区「はとバス」の都内を周遊するツアー=2020年10月1日、東京都中央区

 坂本龍一の古い曲で『Perspective』を何度も繰り返し聴く。今の気分にピッタリな曲だ。

 夕方、知り合いの新聞記者から、日本学術会議の人事介入の件、なんでテレビはどこも取材に来ていないのかと聞かれる。山極寿一前会長が憤慨してぶら下がり会見に応じていたが、テレビはどこの局も来ていなかった、と。任命者リストは山極前会長が退任する直前に内閣府が事務局に持ってきたのだという。杉田和博官房副長官が任命を止めた案件も過去にはあったのだという。いろいろと一気にまくしたてられ、この件にテレビがとんでもない遅れをとったままであることを知る。何とも情けない、みじめな気持ちになる。夜のニュース番組では一応やってはいたが。

学術会議は、もっときちんと怒って然るべき

10月2日(金) 朝、小菅の東京拘置所に取材に向かうがカラぶり。そのまま六本木の日本学術会議の会場へと向かう。

 第181回の日本学術会議総会。新会長に選任された梶田隆章東大宇宙線研究所長が、さっそく政府の人事介入問題、6人の推薦学者の任命外しの件で「要望書」を首相あてに提出する方針を議題にあげて承認を得た。さすがに今日はテレビ各社も取材に来ている。文科省記者クラブが担当のようだ。午前中の総会を終えて出てきた梶田新会長にぶら下がりの囲みインタビュー。

学術会議の総会後、取材に応じる梶田隆章新会長 20201002日本学術会議の総会後、取材に応じる梶田隆章新会長(写真左は筆者)=2020年10月2日

 「要望書」は、任命除外理由の説明と、あらためて6人を任命するように「要望」する内容なのだ。遺憾の意を一応表明するという。弱い。もっときちんと怒って然るべきことだろう。それが「抗議文」とはならずに、なぜ「要望書」なのか。それが学術会議のある意味で現状を語っているのだろうか。戦前の日本では、政府の意にそわない学者や文化人を追放するという忌まわしい出来事が起きていた。天皇機関説事件とか滝川事件とか。

 夕方、国会図書館で内閣法制局の学術会議会員任命についての法解釈に関する文書をみつけたと小西洋之参議院議員から確認をとる。政府は学術会議の推薦者リストに「基づいて」形式的に任命するのであって、それを退ける余地はない趣旨が記されている。どうやらその後、2018年の11月に内閣府と内閣法制局との間で実質的な「解釈変更」が行われていたようだ。

 作家の辺見庸がブログで、菅首相の容貌について「特高顔」と

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