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脱炭素化で遅れる日本

「国境炭素税」の導入も視野に

塩原俊彦 高知大学准教授

 「ワシントン・ポスト電子版」は2020年10月26日付で「世界第三位の経済大国日本、2050年までにカーボン・ニュートラルになると誓う」というタイトルの記事を公表した。菅義偉首相が国会で2050年までにカーボン・ニュートラルな社会(温室効果ガスを二酸化炭素換算した数値の排出量と吸収量がプラスマイナスゼロの状態)を実現するために、石炭利用に関する政策を「抜本的に転換する」ことにコミットしたと伝えている。

 これは、菅が「長年続けてきた石炭火力発電に対する政策を抜本的に転換します」と所信表明でのべた部分に力点を置いた記述であろう。といっても、すでに70カ国以上の国々が、少なくとも2050年までにネットゼロを達成することを約束しているから、この日本の表明は遅きに失したといっても過言ではない。

 しかも、「菅氏のスピーチの時点で、人口の62%を占める160以上の自治体が2050年までにゼロエミッションを宣言しており、1年前のわずか4自治体から増加している」(The Echonomist 10月29日付)ことを考えると、菅の宣言は遅れている。しかも、すでに英国とフランスは法律でこの目標をしっかりと位置づけている(The Echonomist 10月31日付)のだが、菅は口で言っただけの話だ。

 海外からみると、日本の脱炭素社会の実現をめざす姿勢は必ずしも十分でなかった。ワシントン・ポストの記事によれば、「日本の銀行は海外での石炭火力発電への融資を縮小し、政府は海外での石炭火力発電所建設への補助金を「原則的に」打ち切る」としているが、それでは不十分であり、「石炭発電の廃炉の開始」や「日本企業の海外での新しい石炭発電の建設・資金調達停止」が最低限必要であるとの外国人専門家の見解が紹介されている。

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遅れる日本のエネルギー政策

 おりしも、2020年10月13日開催の資源エネルギー庁所管の総合資源エネルギー調査会基本政策分科会に経済産業省が提出した資料「エネルギー基本計画の見直しに向けて」が提出された。

 エネルギー基本計画はエネルギー政策基本法に基づいて、少なくとも3年ごとに検討を加え、必要があれば変更することになっている。いまの第五次基本計画は2018年7月に発表されたものだから、2021年に見直し時期を迎える。同年3月は東京電力福島第一原子力発電所事故から10年の節目にあたり、11月には気候変動対策の強化をめざすCOP26が開催されることを想うと、日本政府のエネルギー政策の抜本的転換に期待したくなる。

 だが、世界の潮流という観点からみると、日本の脱炭素社会をめざす取り組みはまったく遅れている。その理由は安倍晋三前政権が石炭や核物質による発電を強力に支持してきたことにある。あるいは、及び腰の炭素税導入、再生エネルギー軽視など、環境対策への消極姿勢がある。

 前政権を基本的に引き継いだだけの菅政権下で、抜本的転換ができるとは思えない。ここでは、世界からまったく遅れてしまった日本のエネルギー政策について、とくにいま話題となっている「国境調整措置」としての「国境炭素税」の導入をめぐる問題に絞って論じたい。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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